FRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長は「インフレを退治するためには景気後退も辞さない」とあちこちで明言しています。
今回もインフレの展望と金相場について説明していきます。
景気後退の定義とは?
一口に景気が悪い、後退と言っても、どういう意味なのかわかっていらしゃない方も多いでしょう。
この景気後退には定義があります。
その定義とは、GDPが2期連続でマイナスになった場合を景気後退局面というのです。
現状のアメリカのGDPの推移は以下のようになります。
2022年1〜3月期はマイナスとなり、これで4〜6月期もマイナスとなれば、景気後退局面となります。
アメリカの景気後退入りは不可避!?
4〜6月期GDPの1次速報は7月28日に発表となります。
この事前予想はプラス1%となっており、今のところ景気後退局面入りは回避というようなかたちです。
しかし、このプラス1%という予測には疑問を抱かざるを得ません。
理由は、GDPは大抵、株価に沿ったかたちで公表されるものであり、この2022年4〜6月期のNYダウ株価は13%下落しているからです。
例えば、コロナショック直後の31%マイナスという数字は、株価が31%下落したからになります。
今回の、少なくとも1%のプラスという数字には現実味がないといえるでしょう。
もちろん7月になって株価が反転上昇していれば、この13%という数字に多少、上方修正がある可能性はあります。
ただほかの要因、金利やドルの価格を見ても、金利は4〜6月期に0.6%上昇、ドルは6%上昇と株価にとってはネガティブな要因しかなく、今回の4〜6月期はマイナスになる公算が高いと言わざるを得ません。
つまりパウエル議長はインフレ退治に主眼を置いており、そのためには景気後退になっても仕方がないと表明した通りの結果になっているのです。
インフレの根本的治療法とは?
インフレとは、通貨の価値がどんどん下落していった結果起こるので、根本的な治療はドルの価値を高くすることです。
具体的には政策金利の引き上げによって、ドル高は実現します。
それはいつも説明しているように、「ドル×金利」がドルの実質価格で、金利が上昇すれば、ドルの価値は上昇することになります。
実際にパウエル議長は4月から利上げを行っており、7月20日に行われるFOMC(連邦公開市場委員会)では、この金利をさらに最大で0.75ポイントを引き上げると明言しています。
現在の金利は1.75なので、2.5まで上昇することになります。
米標準金利の推移と株価との関係性
ここで、アメリカ国債10年物利回り(標準金利)の推移を見ておきましょう。
今までの金利がコロナショック前までに異様に低かったのがわかります。
当コラムでは、2020年の史上最低金利を2020年8月の段階で史上最低金利であろうと喝破したことをここで改めて記しておきましょう。
では、ここに株価を重ねてみるとどうなるでしょうか。
株価は、金利の低下が始まった1980年代から始まり、今回の株価低下は明かに金利上昇からということが判明します。
政策金利を引き上げると株価は上昇し、引き下げると株価が上昇するのがわかるでしょう。
つまり今後、政策金利であろうが、標準金利(アメリカ国債10年物利回り)であろうが、これがどこまで上昇するかによって株の金の価格に影響を与えるということになります。
金利の見通しと金価格の展望
では、金利がどうなるのかを見通せば、将来の株価や金価格がわかることになります。
反対にいえば、ドルの価格は「ドル×金利」で、この後ろの項の金利が伸びることによって株価や金が下がることになるので、金利の動きを読めばよいということにもなります。
まず、以下のユーロドルのチャートをご覧ください。
ユーロの発足は1999年であり、それ以前は想定レートで、実際に流通していたわけではありません。
発足以来、現在の水準以下までに落ち込んだのは2002年くらいまでで、ユーロ発足当初、ユーロを安い価格でスタートして経済成長を狙っていたのです。
これは、円安になると日本経済が上向くのと同じ理屈になります。
つまり、今の価格というのは実質上の最安値価格です。
このユーロ安は何が起因かといえば、ドル高になります。
最近のドル価格は高いですが、決して史上最高値ということではありません。
直近の10年間程度では最高値まで更新している状態です。
ドルとユーロというのは相対的なもので、ドルが高くなればユーロは安くなり、ユーロが高くなればドルが安くなります。
すなわちドル円の円高ドル安、円安ドル高と同じようなものです。
つまりユーロ安というのはドル高から派生しており、ドルが高くなったのだから、ユーロが安くなっているのです。
ユーロ安の結果起こること
このユーロ安の結果、何がユーロ圏で起こるのかと言えば答えは明快です。
例えば今の日本で円安になり、輸入物価が上昇したのと同様、ユーロが安くなればユーロ圏の物価が高騰することになります。
ご存じのように、ユーロ圏はロシアのウクライナ侵攻などによって、エネルギー価格や食糧価格が高騰中です。
この冬からは暖房需要が大幅に増加する結果、去年の冬以上のインフレが襲うのが不可避な状態になることが予測されます。
つまりこのドル高を秋や冬まで放置すれば、ユーロには救いようのないインフレが襲うことになります。
世界の現状では、インフレによって国家や庶民の生活が破綻するのは避けなければいけない事態であり、おそらくこのドル高は夏までであろうと予測できるでしょう。
ドル高は収まったとしても…
ドル高は収まっても、物価高は進行すると思われます。
なぜなら、このインフレの進行は去年と同じだからです。
まずユーロ圏でエネルギー危機が起こり、アメリカに飛び火しました。
そして、対策として今年の春から今にかけてアメリカが金利を引き上げて、ドル高にしてある程度の成果が現在出ています。
今年もその繰り返しになる可能性が濃厚でしょう。
つまり今後数年にわたり、このインフレ問題は続き、再び金価格が高騰すると予測できるのです。
この記事のまとめ
今回の記事では、インフレ退治のためドル高に持っていったアメリカだが、逆に言えばEUや日本は、アメリカのインフレ退治のために犠牲になっている側面がある。
ロシアのウクライナ侵攻も重なり、このままドル高が続けば特にユーロ圏にこの冬、救いようのないインフレが襲うことになる。
昨年は、このヨーロッパのインフレが飛び火してアメリカもインフレになったゆえに、アメリカはこのドル高を今夏頃には抑制するだろう。
しかし、インフレの進行はといえば続くこととなり、この顕在化につれて金は再び価格上昇を起こすものと考えられる。
こういう内容の記事でした。
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