ウクライナへのロシアの侵攻も9月23日で半年が経過し、その事態終息には目途がたっていないのが現状です。
そこで今回は、ロシアという国と金(=Gold)について考えていきます。
この記事の要約
今回の記事では、プーチン大統領の大前提にあるのがロシアを資源大国として発展させること。
ゆえに方針として、外国に大事な資源を売却することは有り得ない。
またウクライナへの侵攻も、この大原則に則って行われている資源戦争であり、東部ルガンスクやドネツク、クリミアを押さえているロシアは、目標を達成していると言える。
一方で産金およびエネルギーも、中露が覇権を握っていると言っても過言ではない現実。
ドル基軸から排除されつつあるこの両国が自国通貨の信用の裏付けのため、金を買い漁るような時がそう遠くないうちに訪れるだろう。
こういう内容の記事となります。
さて、始まります。
ロシアは新しい国家という大前提
アフリカには内戦などによって新しく誕生した国家(南スーダン)がありますが、世界の主要国の中ではロシアは比較的に新しい国という認識が必要です。
例えばユーロ圏という国を考えた場合、1970年代に考えられた発想から、仮想通貨の状態では1997年から存在しましたが、共通通貨ユーロの実際の流通が始まったのは1999年になります。
ロシアも同じようなもので、1992年にソビエトが崩壊して誕生したので30年。共産思想から自由主義の発想を取り入れた国になります。
実際の運用を見ていると、所々に共産党の発想が色濃く残っているので、ソ連とロシアが一緒と考える方が多いでしょうし、さまざまな点で法律の未整備や制度の欠陥があることも確かです。
中国共産党は今年結党100年を迎えましたが、中華人民共和国の成立が1952年と考えると70年です。
70年経過しても香港や台湾でトラブルを抱えたり、法律も未整備な部分が多いことを考えると、ロシアが幼いのは仕方のないことでしょう。
ロシアは何をやるのにしても幼い、ということを念頭にこのウクライナ侵攻を考えるべきです。
因みに我が国日本は神武天皇の即位を建国と考えると、紀元前660年=建国2682年となり、現存する国家としては世界最古となります。
プーチンの国家方針
一般的に、ロシアのプーチン大統領はエネルギー大国を目指している、と言われていますが多少違います。
目指しているのはエネルギー大国ではなく、「資源大国」です。
ウクラウイナ侵攻によって、エネルギーの輸出に関してロシアは儲かっていますが、ルーブルが高い結果、輸出が不振になって工業製品は壊滅的な打撃を受けています。
ただし、これはプーチン大統領にとっては予定通りの推移であり、ソ連時代から何度も繰り返してきたことです。
エネルギーの輸出によって国庫が潤うと工業製品の補助を増やし、結果として工業が発展するのですが、エネルギー価格が低迷すると工業は全くの不振に陥るパターンの一つにすぎません。
ペレストロイカとオリガルヒ
問題は、プーチン大統領が資源国家を目指していることにあります。
共産主義を脱ぎ去り、資本主義に近いことを行うと宣言したのがゴルバチョフ書記長やエリツィン大統領でした。
基本的にはプーチン大統領もその路線を維持しています。
ソ連崩壊からロシア誕生の過程の中でかなりの混乱があり、ゴルバチョフ書記長は、ペレストロイカと銘打ち国営企業を民間企業に転換する際に、全てのロシア人にその国営企業の株券を配布しました。
多くのロシア人は資本主義に触れたことがなかったので、そのバウチャーをテキーラなどのお酒2、3杯に変えてしまったのです。
その価値を知っていた資本家はできるだけ多くのバウチャーを買い集め、それで次々と国営企業を乗っ取っていき、現在のオリガルヒ(超富裕層)となります。
ただし、そのお行儀の悪さに業を煮やしたプーチン大統領は、数々の不正を行ったオリガルヒを追い出しにかかります。
その中で有名なのがユーコスというエネルギー企業でした。
プーチン対ユーコス
ユーコスの経営者のオリガルヒが石油やガスの油田を外国企業に売却しようとしたところでプーチン大統領の堪忍袋が切れました。
資源国家になると宣言しているのに、大事な資産である油田を外資に売却するのは許せないといい、法律がなければ法律を作り、あらゆる手段を使い妨害工作を行ったのです。
結果、ユーコスは倒産もしていないのに裁判所によって倒産させられ、経営者は逮捕されました。
ただし、この外資への油田売却は間接的な原因です。
ユーコスのオーナーはテレビ局のオーナーでもあり、当時プーチン大統領が行ったチェチェン紛争の批判をテレビで再三にわたり報道したことがプーチン大統領の逆鱗に触れたことが直接の原因でした。
この事例を見てもわかるように、プーチン・ロシアの方針として、外国に大事な資源を売却することはありえないのです。
その後、ロシアのエネルギー会社は全てロシア人資本が株式の50%プラス1株となるのが通常になりました。
これは経営権をロシアが握るという意味になります。
サハリンという例外
例外は、ロシアの技術では天然ガスを掘削することができない極寒のサハリンです。
アメリカ系のエネルギー企業やインド、日本の商社などの100%出資でスタートしました。
ところがロシアの国庫が最近のエネルギー高によって潤うと、いつも通り難癖をつけてサハリンの権益を強奪するように仕向けます。
ウクライナ侵攻が始まってすぐさま、欧米のエネルギーメジャーがサハリン2の権益を放棄したのは、以前からロシア政府や地方自治体に嫌がらせを受けて撤退を求められていたからです。
マクドナルドも、ロシア政府にいつ事業が乗っ取られるかわからない状態だったので、あっさりと撤退しました。
その証拠にロシアでは、政府主体の会社がマクドナルドの運営にあたっています。
ロシアは酷い国?
ここまでの話を聞くと、ロシアはなんてひどい国なんだ、と思う方も多いでしょう。
ただし、マクドナルドはあくまでも自主的に撤退したのですから法的には問題ありません。
多くの資源メジャーは、いつか政府に追い出されるという覚悟を決めてロシアに投資していたので、撤退に後悔などないでしょう。
多くの資源国家、例えばサウジアラビアのアラムコのような国営の石油会社は、欧米の資本をタダ同然で乗っ取り、それを国有化しただけです。
要はどの資源国家でも資源ナショナリズムは行われていることであり、こうした国で事業を行う事業者にとって当然のリスクなのです。
さらにプーチン大統領は、例のオリガルヒの中でも自己の利益を追求しすぎて、国家の利益を尊重しない経営者を毛嫌いする傾向にあります。
欧米の資源メジャーはロシアの油田やガスに高値をつけるので、経営者は自分の利益を最大化するために外資に売った方がよいという判断が働きます。
そういうオリガルヒ追放の筆頭がユーコスの経営者だったのです。
個人の利益を追求せずに、国家の利益を追求すれば、ロシアの大事な資源を外国に売りわたすことは考えられない、とプーチン大統領は考えています。
つまりロシアのあらゆる資源、エネルギーや貴金属、鉱物資源、レアアースは国家管理でなければならず、外国に売りわたそうとする輩がいれば、なんとしてでも排除するという原則です。
ウクライナ侵攻は実は資源戦争
当初、ウクライナの首都キーウに侵攻したロシア軍は、不利と見るやすぐに撤退し、戦場をウクラウイナ東部に移しました。
ここには何があるかといえば、東部ルガンスク地方にユーラシア大陸最大の石炭の炭田です。
ユーラシアの炭田というと、フランスとドイツの国境沿いにあるルール地方を想起する方も多いですが、ルガンスク地方の方が埋蔵量も多く、豊富であることが確認されています。
ウクライナとロシアは同胞である、という意識がロシア人にはありますが、ウクライナ人にはその意識はあまりありません。
例えばソ連最後の書記長、ゴルバチョフの奥さんはウクライナ人であり、双方は昔から同胞という意識がありました。
ところがソ連時代にたびたび、ウクライナを蹂躙したことからウクライナ人は反目するようになったのですが、その事実を知らないロシア人は同胞という意識なのです。
ロシアの一部であるウクライナがその炭田を抱えて、欧州に流れるのは許されない蛮行ということになります。
クリミアの重要性
南部クリミアは、第一次大戦から問題になっている不凍港です。
シベリアなどにある港は冬場は氷結しますし、大型タンカーが入港できない問題があります。
温暖な地域にあるクリミアは、石油タンカーの出入りに最適です。
資源国家を目指すロシアとしては、クリミアはぜひとも手に入れたい土地なので、ウクライナ侵攻にさきがけて併合したのです。
そのほか、ロシアの主要品目に小麦があります。
これはウクライナも同様で、侵攻前までロシア、ウクライナ産の小麦はコスト面で世界の主要輸出国になりつつありました。
その輸出港としても、クリミアは非常に大事な土地になります。
ですから、WHO(世界保健機関)が食料危機になると声明を出したときに、ロシアは積極的に関与し、穀物輸出を円滑にさせようとしただけの話です。
ガスプロムによる欧州へのガス送管
ロシアは、上記のような国益に叶うことは積極的に行います。
例えばガスプロムによる欧州へのガス送管は、契約通りに行うと明言したように行っています。
ただ最近になって止めたのは、欧米の制裁によってイギリス製のタービン装置の輸出を差し止められた結果です。
これは欧米に前科があり、レーガン大統領時代に欧州エネルギー安全保障のためにイギリスのガス送管用のタービンをココム違反として差し止めたことがありました。
結果、ロシアのガスの送管が止まり、結局、レーガン大統領が輸出差し止めの禁止を解いたことがあります。
今回のガス送管停止は、こうした実績を考慮に入れなかった欧米に原因があります。
そのほか、過去に南オセチアなどのロシア侵攻もありますが、以下の論文をお読みになれば、結局、資源に絡んだ侵攻であることは明かです。
https://ouc.daishodai.ac.jp/files/profile/educational_research/shokei/past_09.pdf
引用元:「グルジア紛争から読み解くエネルギー資源争奪戦の真相」(中津孝司)
プーチンは目標を達成した?
最新の戦況では、ロシアの劣勢が明らかになりつつありますが、重要な東部ルガンスクやドネツクをしっかり押さえ、住民投票によって資源を確保したことでロシアの目的は達せられたと言えるでしょう。
プーチン大統領が今回の侵攻によって失ったものは何もないというのは、強がりではないという意味が成り立ちます。
そのほかアルゼバイジャンも石油が豊富な地域になりますが、この地域は中国が進出しているので、そこにはさすがにロシアといえども手を出せないということです。
一方でウクライナが仮にNATO(北大西洋条約機構)に加盟すれば、ロシアの権益は自動的に失われます。
ロシア、欧米、双方とうまくやっていくことがウクライナの生き残る道であり、欧米に流れても激しい不況に陥ることは目に見えていたことです。
参考までに、プーチン大統領が好むのは、元ロシア共産党などの高級幹部だけであり、ゼレンスキー大統領のようなコメディアンは大嫌いな人間になります。
ユーコスの経営者も、ロシア人ではなくユダヤ人であり共産党に属したことがありませんでした。
ロシアが超大国であるというのであれば、自分に都合のよい法治ではなく、きちんと法的に有効な排除の方針を打ち出すべきです。
その点において、ロシアは非常に幼いと言えるでしょう。
中露が世界の金を支配している?
さて、金の話題に移りましょう。
金の最大の産出国は南アフリカではなく中国であり、ほかにオーストラリアやロシアが主要産出国になります。
西側にカウントされているのは南アフリカやオーストラリアです。
このうち、旧宗主国がイギリスとオランダであった南アフリカと、イギリスだったオセアニアは一見西側に見えます。
ところが実際には、南アフリカの資本はほとんど中国になっており、オーストラリアもあまり変わらない状況です。
また、カリフォルニアにあるガソリンスタンドの24%が実はロシア資本になります。
ウクライナ侵攻時にアメリカがロシア産原油を輸入していることが問題になりましたが、ロシアのルークオイルがその輸入を担っていたのです。
これらの事実からわかるように、ロシアや中国は近代化に従い、世界中の資産を購入しているのが現状になります。
つまり金の主要な産地はロシア、中国資本がほとんどカバーしています。
世界で国家による金の買い漁りが始まる?
こうした中露に対してアメリカは、ドル基軸から排除するような政策を数々と行っています。
その結果、ドルに頼らない通貨が必要となりますが、人民元もルーブルもドルほどの信用がありません。
そこでその信用を裏付けるために、国家の備蓄として金準備を増やすほかないのです。
今でも世界の中央銀行が金を買い漁っているのに、ドル離れが加速すれば更に他の通貨の信用をつけるために金購入が増えることになります。
今でも金の需給がタイトなのに、さらにタイトになる可能性が高いのです。
この時期がいつになるのかわかりませんが、そう長くはかからないのではないでしょうか。
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