今回は、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化から、このインフレがまだまだ続くことをテーマに解説し、最後に金価格の展望を記します。
この記事の要約
今回の記事では、商品相場の特性に則って考えれば、ロシア産エネルギーを禁輸しているヨーロッパのエネルギー価格は、この冬も高騰する。
そしてこの高騰を受けて、世界のエネルギー価格も高騰を維持。
一方で、資源大国としてアメリカと肩を並べる大国を目指すプーチン・ロシアにとって、ウクライナ、特にその東部は天王山のような場所。
ロシアはその支配を諦めないだろうし、対するウクライナもロシアの横暴から祖国を守り抜くことを諦めることはない。
つまり、このインフレの終着を見通すことは不可能。
では、始めていきましょう。
商品相場というもの
東京で金の価格がグラム7000円であれば、NYでも香港でもロンドンでも、世界のどこに行っても価格は同じになります。
違うと思う方は、トロイオンス換算や現地通貨換算を考慮していないからです。
商品相場には、こうした特性があります。
今、ヨーロッパはかつてないほどのエネルギー危機です。
理由は、ロシアがウクライナ侵攻を行った影響で、欧米がロシア産エネルギーの輸入を控えているからです。
ロシア産エネルギーに依存していた欧州は、他の地域にエネルギーを依存しなくてはならず、ロシア産ほど安くはないので、相対的にエネルギー価格が上昇したということです。
欧州のエネルギー問題を商品相場で考えると…
上記を商品相場で考えてみましょう。
世界的に人気のソニーのプレイステーション5は、日本の価格が割安ということで海外ユーザーからの注文が日本に大量に入ります。
ですからソニーは、日本でもまだ手に入らないユーザーが多いのにもかかわらず、値上げを敢行しました。
つまり商品の性質が同じ質量であれば、安い方に注文が入るのです。
ヨーロッパのエネルギーが高かったら、安い地域から足りないヨーロッパにエネルギーを輸出すればよいという理屈になります。
しかし安い地域から大量の買い付けが起こり、結果的にヨーロッパと他地域が同じ価格になれば、その輸出入は止まってしまうことになります。
その結果、日本やアメリカはじめ世界のエネルギー価格が上昇することになるのです。
ヨーロッパのエネルギー危機は、ロシア依存度を低めることが狙いですから、ロシアからの禁輸は理にかなっています。
ただしこの修正が1年やそこらで終わるわけがなく、少なくとも5〜6年はかかる話です。
また現時点でウクライナ侵攻は解決の目途がたっていないのですから、今年の冬もヨーロッパのエネルギー価格は高いまま。
それではその間の国内の需要が足りず、このエネルギー高は全産業に影響を与え、インフレは止まらなくなるでしょう。
穀物や半導体からの要因は?
インフレとは、半導体や穀物価格にまで影響があるのではないかと思われる方も多いでしょう。
穀物はロシア、ウクライナ産のコストの安い小麦が戦争によって輸出がままなりません。
その上、今まで世界4位規模の小麦輸出国ロシア、ウクライナのコストが上昇し、輸出力も低下すれば自動的に価格が上昇します。
半導体はヨーロッパ、イギリスの最大の貿易相手は中国です。
その中国が足りない半導体を欧州から買い付けていることに起因しています。
要はアメリカが出してくれないのならヨーロッパを迂回して輸入すればよいという発想で、根幹は商品市場のシステムにあるのです。
米中対立は長引くでしょうから、こちらも解決の糸口は見えていません。
欧州のエネルギー事情と経緯
ヨーロッパのエネルギー事情は、戦前は中央アジアのアゼルバイジャンのバクー油田からの輸入が過半でした。
言うまでもなく、アゼルバイジャンは旧ソ連の構成国です。
もともと中央アジアのロシア圏に頼ったのですが、中東でも多くの油田が見つかりました。
現在の日本が中東からの依存度を下げるためにサハリンなどからも原油を輸入するのと同様に、ヨーロッパもロシア地域から中東まで、多様な輸入先を確保するようになったのです。
ところが1990年代にソ連が崩壊し、中東でアメリカが湾岸戦争やイラク戦争などを始め、イスラエルがサウジやイランと敵対してパレスチナ紛争も始まると、中東からの依存度を下げなくてはならない事態になりました。
そこで登場したのがロシアのエネルギー大国構想で、ヨーロッパ各国はロシアにエネルギー依存を高めるようになったのです。
これに懸念を示したのはレーガン大統領であり、ロシアからのパイプライン建設に反対しました。
パイプラインに必要なコンデンサーをロシアは製造できず、GE(ゼネラル・エレクトリック)とイギリスメーカーに頼らなくては完成しません。
レーガン大統領は当然、GE製コンデンサーのロシア向け輸出を禁止しました。
しかしサッチャー首相が外貨獲得のためにロシア向けのコンデンサー輸出を許可したことがロシア依存の始まりです。
ウクライナ侵攻は資源戦争
ロシアはなぜウクライナに侵攻したのでしょうか。
答えはパイプライン。
まずパイプラインのパイプの原材料は鉄です。
そのほか石油、ガスの掘削には鋼鉄が必要でロシアにとっては重要な戦略物資になります。
ウクライナ東部ドネツクには豊富な炭田があるとともに、鉄の産地でもあります。
ロシアがここをウクライナから切り離したいのは当然のことです。
また、それ以上に重要なのがパイプラインです。
以下は欧州のパイプライン路線図になります。
まずロシアの位置を確認し、次にウクライナの位置を確認してください。
ロシアからヨーロッパのドイツやフランスといった先進国に行くには、ウクライナ、ベラルーシ、バルト三国を経由しなければなりません。
このうちベラルーシは親ロシア国ですが、その北のリトアニア、エストニア、ラトビアのバルト三国はソ連倒閣運動がここから始まったと言われるように、ロシアの意向が通るような国ではありません。
しかしロシアと近接しているので、バランスを考えて行動しています。
ところがウクライナは、ご存じのように民主主義という錦の御旗を広げ、欧米側につこうとしました。
プーチンの策略
実は、ロシアがエネルギー大国になるためにプーチン大統領はいろいろな策略を巡らしています。
アゼルバイジャンは、バクー油田を有するエネルギー資源国です。
この国からトルコなどを経由してヨーロッパ諸国へのガス供給を試みたことがありますが、プーチン大統領は、黒海を通ってヨーロッパにガスを供給するサウスストリームというパイプラインを完成させ、ヨーロッパのロシア産ガス依存度が高まるようにしています。
また、パイプラインがバルト三国を通過すると通過料が発生するので、ノルドストリームという西シベリアからのパイプラインを完成させました。
これが今回爆破されましたが、ロシア犯人説は間違いです。
ロシアでパイプラインを爆破することは、プーチン大統領に逆らうことと同義です。
おそらく、西欧のどこかの国が主犯でしょう。
つまりプーチン大統領は、西欧にロシア産エネルギーの依存度を下げさせたくない、という思惑なのです。
そこにウクライナが西側に行ってしまったら、おそらく西欧はウクライナを経由して、アルゼバイジャンを筆頭にアルメニア、グルジア、イランなどを経由したパイプラインが完成してしまいます。
東部4州とクリミアはエネルギー覇権の天王山
クリミアからウクライナ東部4州を押さえれば、中央アジアからのエネルギー供給のパイプラインを通すことができません。
トルコなどを経由するパイプラインは輸送量が少なく採算が取れません。
ゆえにウクライナの東部4州と黒海に面したクリミアを取ることは、プーチン大統領にとって重要課題です。
アメリカが戦後、世界の覇権を握っていたのは結局、石油です。
1975年までアメリカは世界最大の石油の輸出国でした。
そこから石油生産はゼロになりましたが、中東を握っていたので世界の覇者として君臨できたのです。
そこに茶々を入れていたのがソ連、ロシアであり、石油価格が高騰していれば、ロシアはバーゲン価格で販売して裏の覇権を握っていました。
ロシアはエネルギー利権を握って再びアメリカと肩を並べたいという思惑があるので、ヨーロッパの市場は死に物狂いで守ります。
そのためには、ウクライナは絶対にロシア寄り国家にしなくてはならないという思惑があるのです。
実は米露は一蓮托生?
バイデン大統領がウクライナに大規模に肩入れをしないのは、ロシアなしでは世界のエネルギー供給が不足するのが目に見えているからです。
サウジは昔のように言うことを聞きません。
これは、2020年に原油価格を米国のいうことを聞いてマイナス価格になったことに由来します。
その結果、サウジは相当な困難に陥り、今回のOPEC(石油輸出国機構)総会で減産を決定しました。
世界のエネルギー価格はロシア、中東が下げさせない構造になってしまっているのです。
アメリカの力の低下が見えてきています。
かつてのようにアメリカがエネルギーの純輸出国であれば、問題なくロシアをたたくでしょうが、ロシアなしでは世界が成立しない現状を見ると、ロシアをたたきたくとも叩けない状況なのです。
石油依存の多様性は日本でも問題になりますが、ヨーロッパでも事情は同じです。
ロシアはアメリカと肩を並べるために侵攻を行っているのですが、アメリカはロシアというピースが欠けると自身の覇権にも関わる問題なので慎重なのです。
現状はロシアが不利なようですが、結局、ヨーロッパは最終的にロシアのエネルギー依存を低めることはできないでしょう。
なぜなら、人はプレイステーション5のように安いものに流れるからです。
ウクライナ侵攻とインフレの顛末は?
プーチン大統領は国家の存亡と、かつてのソ連の栄光を取り戻そうと必死です。
現状でもロシアは、ウクライナ東部を併合したことによって、何も失っていないと考えていることでしょう。
ガスの輸送と炭田によって、ロシアの国益が守られるからです。
反対に石油価格を下げれば、ロシアは簡単に経済危機に陥ります。
毎度、そのパターンでソ連もロシアも国力を落とし、最終的にはアメリカの経済援助に頼ってきました。
石油価格をサウジと並んでロシアは死守するでしょう。
ウクライナ侵攻は、ゼレンスキー大統領が諦めれば終わるのですが、その気配はありません。
一方で、諦めればロシアの凋落がわかっているプーチン大統領も絶対に諦めません。
つまりインフレは終わらない、ということです。
金価格の展望は?
金の価格構成は、
【1】ドル
【2】金利
【3】GDP(国内総生産)
です。
ドルはインフレ抑制のために上昇、金利もインフレ抑制のために上昇、インフレによってGDPも下がるので、本来金は急落しなければいけません。
しかしアメリカと中ロが対立、ドル離れも顕著ですから他通貨、元とルーブルの信用性の問題がこれから出てきます。
中国やロシアが金を買い進めるのは結局、自国通貨の信用補完のためです。
これから中国はまだ経済成長を続けるでしょう。
その結果、通貨の発行量が増えるので、ますます金の需要は高まるでしょう。
つまりファンダメンタルズでは金は激売りですが、需給では金は買いということになるのです。
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