最終回:最新の合成ダイヤ事情!ここまで進んでいた合成ダイヤ技術進化!

合成ダイヤモンドが問題視される理由


現在の合成ダイヤモンドは、従来の「合成ダイヤモンド=産業用ダイヤモンド」という概念を大きく変えました。

天然のダイヤモンドと遜色ない輝きと硬度を持ち、色や大きさがコントロールできるうえに、一晩から数週間で製造でき、しかも価格は十分の一以下

その美しさに着目したクリスタルブランド「スワロフスキー(Swarovski)」は2018年、日本初となる合成ダイヤモンドを使用したコレクションを発表したほど。

正直いって消費者サイドに立てばメリットばかりのような合成ダイヤモンドがマーケットで問題視されているのはなぜでしょうか。

それは「それと知らずに買ったダイヤモンドが合成だった」というリスクに他なりません。

このようなリスクを防ぐためにはダイヤモンドの鑑定に相当なコストが掛かることになり、販売各社にとっては大きな負担です。

これらの原因は天然ダイヤモンド市場に混入してしまう合成ダイヤモンドの存在にあります。

なぜそのような事態が起きてしまったのでしょうか?

研磨国で混入してしまう

現在最大の合成ダイヤモンド製造元は中であり、製造された合成ダイヤモンドの90%の研磨委託先はインド

そのインドで小さな合成メレダイヤが天然ダイヤモンドに混入してしまうケースが後を絶ちません。

合成ダイヤモンドの加工段階における、トレーサビリティの不明瞭性こそ早急に解決すべき緊急課題となっています。

還流品の中に紛れてしまう

見た目もそして科学的組成も、合成ダイヤモンドは天然ダイヤモンドと変わりはありません。

リユース品として二次流通段階において鑑定をパスしてしまう可能性は非常に高いといわざるを得ません。

こうして合成ダイヤモンドがリユース市場に天然ダイヤモンドとして混入することは大いにあり得ることです。

デビアス社はじめダイヤモンドジュエリーブランドによるブランドロゴとIDナンバー(個体識別番号)の刻印がさらに大きな意味を持つことになります。

またリユースショップ含め還流品ダイヤモンドを扱う業界全体の鑑定能力の向上が強く求められています。

宝石質合成ダイヤモンドの大量生産

今後事態を大きく左右することになる要因が、宝石として通用するレベルの合成ダイヤモンドの大量生産です。

高度な鑑定機器を必要とする合成ダイヤモンドが一部の悪質な業者によって天然ダイヤモンドとして販売される可能性はないとはいえません。

宝飾業界全体でのダイヤモンドのトレーサビリティシステムの整備が待たれるところです。

合成ダイヤモンドの大量生産を可能に!「HPHT合成(高温高圧)」


期せずして天然ダイヤモンド市場に混入してしまうことで問題視されてしまう合成ダイヤモンド。

別の言い方をすれば現在の合成ダイヤモンドはそれほど天然ダイヤモンドに近い存在という証でもあります。

では、合成ダイヤモンドはどのような技術を駆使して作られているのでしょうか。

まず、戦後大きく合成ダイヤモンド製造を進歩させた高温高圧による「HPHT合成」です。

この技術は、GE社が開発した超高圧発生装置によって可になりました。

HPHT合成とは、簡単に言えば天然ダイヤモンドが生成される地殻マントルの環境を人工的に再現するというもの。

ダイヤモンドの構成元素である炭素(グラファイトなど)を金属の溶液に溶かしこみ、十分な高温高圧を加えることによって、ダイヤモンドの結晶を成長させます。

問題はダイヤモンド生成に必要な高温高圧に耐えうる容器にかかる高額なコストです。

HPHT合成によるコストは、天然ダイヤモンドの価格を大幅に上回るほどでした。

しかし現在では技術向上により大幅なコストダウンが可能となり、HPHT合成ダイヤモンドを使用したジュエリーが複数のブランドから販売されています。

その一方中国製のHPHT合成ダイヤモンドが大量に出回り始めていることは懸念材料となっています。

ジュエリーとして通用するようになった「CVD合成(化学気相成長法)」

 


いわば地球内部の近くマントルを再現してダイヤモンドを製造するHPHT合成に対し、まったく新しいアプローチでダイヤモンド合成を可能にしたのが「CVD合成」です。

1950年代にアメリカで開発された後、旧ソ連圏および日本で研究され続け、1980年代に一気に技術革新が進みました。

CVD合成とは、気相成長法という名のとおりに、メタンなどの炭素含有ガス気体マイクロ波と高温によって、ベースとなる金属板にダイヤモンドの層を積み上げるという技術です。

そのため出来上がったダイヤモンドは板状となり、宝飾品には向かないとされてきましたが、コストが安く、かつインクルージョンの少ない無色透明の理想的なダイヤモンドが製造できる有望性から、研究が続けられてきました。

そして2018年現在においては5ctアップのエメラルドカットの合成ダイヤモンドの製造に成功いう報道が出るまでに技術向上が進みました。

現在非常に注目されている合成技術です。

確実に天然ダイヤモンドを手に入れるには?ダイヤモンド鑑定の最前線


HPHT合成やCVD合成で作られる合成ダイヤモンドは研究室や工場で作られたというだけで、見た目や組成共に天然ダイヤモンドとの違いはほとんどありません。

果たして私たちには合成ダイヤモンドを見破るすべは残されているのでしょうか?

皮肉なことではありますが、合成ダイヤモンドの技術が進化するほどに、ダイヤモンド鑑定技術も洗練されています。

主要なジュエリーフェアや、鑑定機関GIAでは、合成ダイヤモンドに関するセミナーを活発に開催しています。

どのような手段で鑑定機関は合成ダイヤモンドと天然ダイヤモンドの選別に対処しているのでしょうか。

ここでは現在のダイヤモンド鑑定事情についてお伝えします。

膨大なデータベースによるリファレンスが可能

実はGIAやデビアス社の鑑定部門では合成ダイヤモンド技術の進化を初期段階からウオッチしてきました。

これらの鑑定機関が天然ダイヤモンドとHPHT、CVD合成ダイヤモンドとの選別が可能なのは、膨大なデータベースの蓄積があるからなのです。

たとえば成ダイヤモンドには、色やインクルージョンの入り方などに特徴があります。

天然ダイヤモンドにはあまり見られない特性によって合成ダイヤモンドを選別することができるのです。

進歩する鑑定機器

上記で培われた合成ダイヤモンドの属性データによって、鑑定機器の機能は格段に向上しています。

たとえば、デビアス社が開発した合成ダイヤモンド鑑別に使用するマシンは、あらゆる角度から検査を可能にした機器で、様々な判定基準から合成ダイヤモンドと天然ダイヤモンドを選別することが可能です。

合成ダイヤモンド最新データの共有

GIAでは、合成ダイヤモンドの鑑定基準となる情報を、四半期ごとにGIAの専門誌「Gems & Gemology(宝石と宝石学)」で共有しています。

合成ダイヤモンドは決して負の存在ではなく、気軽にその美しさを楽しむ素材として歓迎すべきもの。

そのためには、天然ダイヤモンドを証明するための仕組みづくりが求められています。

一口コラム:日本の合成ダイヤモンド産業&天然ダイヤモンド鉱脈

 


実は日本も合成ダイヤモンド産業をけん引する立場にあり、過去にはギネスブックに掲載された時代もありました。

1982年住友電気工業株式会社が当時最大級の1.2カラットダイヤモンド単結晶の合成に成功したのです。

このニュースは世界を駆け巡り、1984年版のギネスブックに世界一大きい合成ダイヤモンドとして掲載されるという快挙を成し遂げました。

しかし、同社が追及したのはあくまで超合金に代わる新素材としての工業用産業用ダイヤモンドでした。

参考URL:https://www.sei.co.jp/newsletter/2012/04/product.html

また、旧:科学技術庁所管の研究所「無機材質研究所NIRIM 」(現在は「NIMS」)の先端材料研究の一環として、住友電工をしのぐ大粒のCVD合成ダイヤモンドが製造されました。

しかし、こちらも板状ダイヤモンドの量産が主たる目的であり、宝飾用ダイヤモンドとしては不適当なものでした。

合成ダイヤモンドのトピックだけではありません。天然ダイヤモンドが発見されたニュースがメディアを賑わせた過去もあります。

2007年当時東京大学大学院に所属していた水上知行博士が愛媛県で「1ミリメートルの約1000分の1 1μm(マイクロメートル」サイズの極小ダイヤモンドをみつけたのです。

火山島国である日本では、活動的で若い地層には、地下100km以上のマントル内で生成する天然ダイヤモンドは発見されないという常識を覆しました。

参考URL:https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2007/16.html

合成ダイヤモンドに気づかされる天然ダイヤモンドの真の価値!

 


これほどまでに合成ダイヤモンドがマーケットを侵食しても、大手ダイヤモンド企業各社からは不思議なほど合成ダイヤモンドに対する危機感は感じられません。

彼らは、天然ダイヤモンドが簡単にその価値を失うような脆弱な存在ではないことを十二分に承知しているからです。

ダイヤモンドの価値を決定するのは人々の価値観の在り方です。

天然ダイヤモンドが持つ地球30億年以上もの時を刻んだ歴史、その希少価値が合成ダイヤモンドに脅かされることはありません

思い出してみてください。

ここでいう『価値』とは金銭的な『交換価値』ということ。

人工的に作られたフェイクレザーがリアルレザーの価格を上回ることがあるでしょうか?

どれだけ綺麗な淡水真珠も、日本のアコヤ真珠の価値と等価と言えるのでしょうか。

大粒の淡水真珠が、一流ブランドのアコヤ真珠よりも価値を認められることがあるでしょうか?

同様に今後天然ダイヤモンドの需要が大幅に減る可能性は極めて低いといえるでしょう。

デビアスはじめ天然ダイヤモンド産業をリードする企業が、消費者の不安を抹消させるに足る自信に満ちているのは理由があるのです。

気軽に合成ダイヤモンドジュエリーの輝きを楽しみながら、天然ダイヤモンドに地球の歴史を感じる希少性にリスペクトする、そんな使い分けができる幸せな時代はもうすぐそこに来ています。


コメント

“最終回:最新の合成ダイヤ事情!ここまで進んでいた合成ダイヤ技術進化!” への15件のフィードバック

  1. ラマン分光ファンのアバター
    ラマン分光ファン

     このような大粒ではありませんが、トライボロジー分野でナノレベルのダイヤモンドが機械の摩擦耐久性を決めているというCCSCモデルが提出されています。ナノレベルたと熱力学的にはグラファイトよりもダイヤモンドが安定になるらしいです。

    1. トライボロジー関係のアバター
      トライボロジー関係

       ボールオンディスク試験で確かめました。ラマン分光とディスクに潤滑油を微量に塗るテクニックを知っていれば確認できますね。久保田博士が内燃機関シンポジウムで発表した「境界潤滑現象の本性」なるものがとても参考になります。

  2. 霊長類ケンイチのアバター
    霊長類ケンイチ

     EHL理論の専門家であれば、油膜は絶対に切れないというでしょうね。しかし境界潤滑状態というのもうすでに油膜は切れています。電気抵抗を計った実験が調べればたくさん出てきます。しかし問題は「油膜が切れる」と言いたくなるような突然死(サドンデス)が起こるのはなぜかということです。それに明確な答えを出したのが久保田博士のCCSCモデル。なんと潤滑油由来の表面に張り付いたグラファイト膜(トライボフィルム)がナノメートルのダイヤモンドになるというものです。詳しくは「境界潤滑現象の本性」で検索してみてください。

  3. メタルケンイチのアバター
    メタルケンイチ

    そのトライボプロセスのモデル化、汎用性の高い境界潤滑理論になりそうですね。それは、第一に、低フリクション化と焼付きの両者が説明できること。第二にボールオンディスクとラマン分光による簡便な実験で実証できること。さらには、展望が広かっていること。トライボロジーもますますおもしろくなりそうだ。

  4. ガンダムファンのアバター
    ガンダムファン

     材料物理数学再武装も面白かった。

    1. 三戸 健人のアバター
      三戸 健人

      コメントありがとうございます。
      今後ともリファスタのコラムをよろしくお願いいたします。

  5. ジェットイノウエのアバター
    ジェットイノウエ

     久保田邦親博士ですね。なんかナノテクノロジー分野でノーベル賞候補でダイセルリサーチセンターの方ですね。

    1. 三戸 健人のアバター
      三戸 健人

      コメントありがとうございます。
      私はテクノロジー詳しくないので、コメントからそのような方がいらっしゃることを知りました。

  6. 参考までのアバター
    参考まで

    「古墳時代の大刀のマルテンサイト組織の研究」 八十致雄, 三奈木義博, 高岩俊文, 久保田邦親, 金泉豪史, 大庭卓也, 森戸茂一, 林泰輔 日本金属学会春期大会 2013年

    1. ありがとうございます。

  7. 修理固成のアバター
    修理固成

    マルチスケール合金設計もすごいですね。

  8. 高天原のアバター
    高天原

    これが有名な久保田バズーカか。

  9. 九州エンジンのアバター
    九州エンジン

    やはり神様はトランプエレメントの合金設計が自動車のLCAの観点からも重要とお考えのようだ。

  10. ものづくり製造業のアバター
    ものづくり製造業

    最近久保田博士のSNSひらいたら、関数接合論で経済学の祖アダムスミスの神の見えざる手を計算していた。材料物理数学再武装って結構面白そうですね。

  11. サステナブルマテリアルのアバター
    サステナブルマテリアル

    プラスチック金型の化学反応の権威の方ですね。

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