パウエル議長と米金利
金の価格は根本的にはドルとリンクしています。
今、金価格には凪の風が吹いていると感じている方は少ないでしょう。
では、なぜ「凪の風」なのかを解説してまいりましょう。
去年の夏からトランプ大統領がパウエル議長に対して、「金利を下げなさい」と何度も強く言っています。
それに対してパウエル議長は何も語らず、先週あたりからいきなり「当面の金利を上げない」と発言しています。
Bloomberg:「パウエルFRB議長、追加利上げに慎重姿勢示唆」
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-12-20/PK0HPU6JTSE801
上記は、昨年のFOMCが終了したあとに発表したパウエル議長のコメントを記事にしたものですが、「金利を上げるのには慎重になる」と言っています。
金の重要な価格要因はドルの上下動ですが、ほかの金融商品には金利が発生するのに対し、金には金利が発生しないことから、金利も重要な価格決定要因です。
投資家は金利が上昇しない、下がると見込むと、債券の金利が抑えられますので、金に資金がシフトする構図になります。
つまり今後、金に資金が集中してくる事態が予測されます。
トランプ大統領と米金利
トランプ大統領は去年の夏から金利について、FRB議長にさんざんに言っています。
結果として、トランプ大統領の言う通り株価が下落し、その結果「リセッション入りするのではないか」とメディアなどでは言われております。
このような結果が、FRB議長であるパウエルさんの「金利をしばらく上げない」発言につながっているのは想像に難くありません。
現在のアメリカは、好景気で商品需給がタイトになっている、つまり物価が上昇する見込みであるから金利を上げるのです。
ほかの先進国を見ると、ユーロはQEを停止しましたが金利はマイナスのまま、日本は短期金利がマイナス、長期は0.02を誘導目標上限として金融政策の舵を切っています。
つまり先進国の金利面において、米国の長期10年債で2.7%前後の金利は、投資家にとって非常に魅力的なのです。
その結果、ドル買いが起こっており、もっと言えば、債券が買われています。
しかし、トランプ大統領の真意は?
トランプ大統領が盛んに言う「FRBは金利を下げるべきだ」という発言は、ドル高を望まないという真意になります。
なぜかと言えば、ドルが高すぎれば貿易は不振になり、消費者の購買意欲が落ち、結果として不景気になるからです。
「FRBに金利を下げろ」と言うことによって、金利安、ドル安を望んでいるのにほかならないのです。
では、金の価格は?
ドル建てでの金の価格は、
1. ドルの上下動によって金の価格が決定する
上記の説明を見れば、今後もドル安が続くと見られますので、金の価格は相対的に上昇すると考えるのが妥当です。2. 金利が低下をする
金利が低下すれば、債券の利回りが低下し、その結果として債券から金、もしくは商品相場への資金シフトが進み、金価格が高騰すると考えるのが妥当です。
上記のようなロジカルな分析が必要で、結果としてドル建ての金価格はおそらく今後、上昇するであろうと予測できます。
円建て金価格の場合
日本経済を皆さんは好調だと思うか、それとも不調だと思うかになります。
ほとんどの方は不調だと思っていると思いますが、データ的にはどうなのでしょうか?
上記の表は街角景況感指数と言い、50が平均で好不況の分かれ目です。
50を下回っているので、消費者は不景気を感じています。
しかも去年と比べると2017年12月は44.6の指数であったのに対して、2018年12月は42.7と実に4.4%も景況観が下がってしまいました。
経済指標で4.4%も下がるなんてことは、異常な落ち込み方です。
この原因には7-9月のGDPが前年比でマイナスだったことが大きく影響しています。
日本経済は好調?不調?
上記はGDP成長率前年比になりますが、2018年7-9月期は大きくマイナスになっています。
大きな原因は、7-9月に北海道の地震や関空での大災害などの自然災害を考えればおわかりになるでしょう。
去年の夏の自然災害によって大きく経済状態が落ち込んでいるのです。
10-12月のGDPの発表は、2月の中旬ころになりますが、大きな自然災害が2018年10-12月になかったことを考えれば、おそらくプラスになるであろうと予測されます。
前期比で見れば、日本経済は消費者がいくら不調であっても、好調に予想されるのです。
2月の中旬にGDPが出る結果次第になるのですが、この結果を考えていけば日本経済は好調と判断できます。
日本経済が好調であれば円安方向にマーケットは進むと考えられ、その結果、円建ての金価格は上昇すると考えられます。
ドル安円安の概念
ドル円相場はドル高であれば円安、ドル安であれば円高というように、一方が高ければ一方が安くなる相対的な値段表示だということを思い出してください。
例えばトランプ大統領がドル安を叫び、ユーロのドラギ総裁はQEを停止し通貨供給が減るのですから、ドル安ユーロ高になるのと一緒のことです。
こう考えれば、ドル安円安なんてことはあり得ないとお思いになる方もいらっしゃるでしょう。
これは、実は為替特有の相対値での表現ではなく、絶対値での表現なのです。
ものの値段は、生産コストに利幅をのせて表記するのが絶対的な表記であり、一方でAとBという同一商品を比較して値段の高い安いを認識するのが相対的な表記になります。
ドル安円安とは、絶対的な表記なのです。
アメリカは政治的な動きによってドル安になっており、一方で日本は前期に大規模な自然災害が各地で発生し、それよりも10-12月期は改善しているはずだと申し上げているのです。
その結果、前期に比べて日本経済は好調なのだから、円安ということになります。
ドル安円安で起こること
金の取引をしていると、ドル高になれば円安だけど金のドル建て価格は下落して、結局、金の価格は動かないと感じる方は多いのではないでしょうか。
その逆も同じです。
しかし、この絶対的な表記で考えていくと、ドル安円安の状態では金の価格は一気に上昇し、ドル高円高の場合は暴落します。
絶対値で日米の経済を比べると、日本は前期より好調、アメリカは政策的に不調で円安ドル安になっているのですから、価格は上昇しやすいということになります。
もっとも日本の場合、消費の6割を個人消費が占有しますので、消費がこのまま不調ですと、すぐに円高になる可能性があります。
つまりドル建て価格は上昇するけれど、日本円では価格は横ばいか、下落という形になるのです。
もちろん実際のドル円相場は、現在は圧倒的なドル安ですから円高にいくでしょうが、日本経済はアメリカほど悲観することがないから、絶対的な判断ですと円安に行きやすいのです。
《参考》日米の実効為替レート
青い線が日本の実効レート(左軸)、オレンジの線がアメリカの実効レート(右軸)です。
青い線の実効為替レートは7-9月には低迷していますが、12月から勢いよく上昇(円安)になっています。
その後、年初の株式の急落から下落しています。
オレンジの線のアメリカは、12月から急速に下がっています(ドル安)。
このグラフを見れば日本は円安、ドルはドル安です。
実効為替レートは相対値ではなく、絶対値になります。
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