イスラム教には金利の概念がない⁈
昨今、イスラム教過激派によるテロが相次いでいますが、今回はイスラムの金融についてお話しをしていきたいと思います。
その過程で、金がムスリムには大変重要な話になってくることの解説をしてまいります。
イスラム教に関して、日本人は無知に等しいと個人的に考えています。
イスラム教の聖典『コーラン』には、「困っている人にお金を貸す際に金利を徴収してはいけない」という規定があります。
つまり、イスラム圏にある銀行、特にイスラム金融を謳っている金融機関からお金を借りる際には利子、金利がありません。
ご存知のように銀行は預金者からお金を集め、それを貸し出すことによって業務が成立しています。
出資者である預金者には利子を付与し、お金を借りる債務者からは金利を徴収しており、その金利差によって利潤を出しています。
金利を徴収してはいけないということであれば、イスラム金融の銀行は業務が成立しないことになります。
では、どうやって利益を出しているのでしょうか?
世界で人口が増えているイスラム教信者
以前にも記しましたが、世界にキリスト教信者は約25億人、イスラム教信者は10〜15億人と言われています。
このうちキリスト教徒はほとんどが先進国、つまりこれらの国々では少子高齢化が進行し、信者数は減少傾向です。
ところが、イスラム教徒は発展途上国に多く分布していますので、人数が増加する傾向にあります。
世界の宗教で増加傾向なのはイスラム教だけであり、2040年ころを目途にキリスト教の信者数を逆転するだろうと一般的に言われています。
今後の世界は、イスラム金融が主流になる可能性があり、銀行が金利を徴収・分配するような標準モデルは通用しなくなるかもしれないのです。
であれば、それを理解しておかなければいけません。
イスラム金融の基本は日本のリース業と同じ
イスラム金融と聞くと、「また難しいことか…」とゲンナリする読者も多いと思いますが、原理は非常に簡単です。
お金を貸してほしい消費者や企業は、現金を受け取るのではなく、商品をまず受け取ります。
あなたが車を買いたいのでれば、銀行がその車を提供するのです。
欧米の銀行であれば、車の購入資金として現金を渡すのが一般的ですが、イスラムの銀行では銀行が車を買い、それを消費者に渡すというシステムになります。
そして、銀行はその車を消費者に貸し出す(リースする)のです。
そのリース料の中に欧米の銀行で言う金利が含まれます。
事業者の場合も同じです。
事業者は事業計画を立て、銀行はその事業計画を買い、その事業計画通りに資金を供給します。
例えば土地建物を買った場合、所有者は事業者ではなく、銀行になるのです。
そしてその土地建物をリースし、その使用料金を事業者から徴収するだけの話です。
イスラム金融というご大層な名前はついていますが、実態は単なるリース業になります。
実はキリスト教も金利が禁止だった
日本でも高金利の金貸しが昔から忌み嫌われていたように、実はキリスト教のもともとの教義も金利を徴収することが禁じられていたのはあまり知られていません。
カトリックでは、15世紀以前は金貸しが金利を徴収することが固く禁じられていました。
しかし、中世のベネチアで商業を中心に町が発展したことによって、金利を金融システムに組み入れないと出資者が極端に不足するため、経済が廻らないというような状態に陥ったのです。
そこで当時のローマ法王などが、この教義を削除したことによってベネチアを中心とした商業が発展したという経緯があります。
偶像崇拝も禁止だったキリスト教
参考までに、アフガニスタンのタリバンなどが偶像崇拝の禁止を理由に数々の遺跡を破壊しつくしましたが、キリスト教も本来、イスラム教同様に偶像崇拝が禁止されていました。
その契機はドイツのルター派、スイスのカルバン派が隆盛したことにあります。
ルターとは、宗教改革のルターのことであり、キリスト教を司祭たちが独占していたことに腹を立て、『聖書』は司祭だけのものではなく信者皆のもの、という考えを広めました。
当時、ドイツで印刷技術が開発され、ラテン語の『聖書』をドイツ語に翻訳したものが爆発的なベストセラーになった結果、キリスト教がローマ法王を筆頭とした司祭たちだけのものではなく、信者全員のものになる契機となったのです。
ほかにもまだあった両宗教の共通点
このローマ法王を中心とした宗派をカトリック、ルター派のことをプロテスタントと言います。
ルターは現在でも教会で歌われている讃美歌の大衆化も進め、結果として今、音楽がほとんどドイツ語で表記されるのは、その大部分がドイツ発祥だからです。
ローマやイタリーで音楽がなかなか発展しなかったのは、讃美歌が法王や司祭たちに独占されていたからになります。
イスラム教でも音楽は同じことです。
ムスリムにとって音楽とは『コーラン』の朗詠であり、それ以外の音楽は一切認められていませんでした。
イスラム音楽の代表的なものと言われても、皆さん思い浮かばないのはそのためです。
イスラム教とキリスト教が今は大きく対立しているように思えますが、このようにもともとの教えは、仏教にも通じることがあるように、ほとんど一緒のものになります。
イスラム教、キリスト教、仏教も、借金に対する高金利が本来は禁止だったのです。
イスラム金融の例外であるマイクロ金融
だいたい同じような教えをしている世界の三大宗教になりますが、昨今、バングラディッシュでのマイクロ金融が有名になります。
バングラディッシュはイギリスのインド統治の結果、ヒンズー教とイスラム教が分裂して生まれた国家になりますので、国民のほとんどはイスラム教徒です。
イスラム教では金利が禁止されていますので、大衆化されたマイクロ金融での金利はイスラムの教えに反すると考える方も多いと思います。
ただ、イスラムの世界では貧者に対しての寄付という考え方において、金利は認められていますので、マイクロ金融は教義には反していないというかたちになります。
イスラム金融の今後
現在、金を積極的に購入しているのはロシア、中国、インド、メキシコ、トルコ、イランなどが挙げられ、このうちトルコとイランがイスラム教の国家です。
トルコのエルドアン大統領は去年、「今後、積極的に金を使い金融を行っていく」と発言しました。
当初この発言の意図がよくわからなかったのですが、金を担保にリース事業を行い、資金調達を活発化していくということが最近になって判明しました。
トルコは、去年のアメリカとの対立の影響から現在経済が低迷していますが、金を使い資金調達を行っていくとすれば、今後ますます金需給がひっ迫されていくことになります。
これはほかの中東などのイスラム国家も続く可能性が高く、ますます新興国の金購入の増大が予測され、ドルや金利の動向を除くと需給からはタイトになり、価格の押し上げ圧力になる可能性が高いことを示しています。
ロシアは原油の収入を安定させるために、中国は人民元の裏付けのために金の購入を行っており、これにイスラム圏が続くとなると、大きな需要拡大になるでしょう。
ただし、残念なことにマレーシアで去年、イスラム金融を使ったゴールドマンサックスを中心とした不正が行われたことが、昨今のイスラム金融の低迷につながっています。
しかし、時間の経過とともに今後、世界最大の宗教となるイスラム式の金融が発展することは確かです。
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