米-イラン戦争回避の条件の復習
イラン情勢がいよいよ緊迫化してきました。
イランがアメリカの無人偵察機を撃墜したことに対し、トランプ大統領は予定していた報復攻撃を回避したことを発表しましたが、今度は、国連安保理に制裁決議を求めています。
今回も状況を説明してまいりましょう。
イラン情勢は、すでに戦争か否かの瀬戸際に突入しています。
「イランとアメリカは戦争にならない」と言っていた方は、何を根拠に言っているのかいまだにさっぱりわかりません。
イランとアメリカが和平する条件を、改めて記します。
① 仲介国の誕生
② 双方が譲歩する
のいずれかがあれば、戦争回避の可能性があるよと以前から話しています。
まず、①の状況から解説していきましょう。
トランプ大統領が国連安保理に制裁決議を付託したことは、事実上①の仲介国が誕生したことになります。
国連も仲介国(組織)の一つであると言えるからです。
では、国連で何が行われ、その結果、何が起こるのかを考えていきます。
国連安保理への提訴
国連安保理は、常任理事国と非常任理国で形成されます。
このうち問題なのが常任理事国5ヵ国になり、それは第二次大戦の戦勝国、アメリカ、ロシア、中国、フランス、イギリスです。
常任理事国には拒否権が付与されており、1ヵ国でも拒否権を発動すれば、安保理で多数決によってイラン制裁が決定しても、発動できなくなります。
現況のイランに対する常任理事国の姿勢を確認していきます。
アメリカとイギリスの姿勢
アメリカは、イラン紛争の当時国で、制裁を提案した国ですので拒否権を発動することはありません。
イギリスは今回のイラン紛争に関して、真っ先にアメリカに賛同しています。
ブレグジットで国内の経済が現状ズタズタですので、国内事情がその選択をさせたと考えるのが妥当です。
そもそもメイ政権は退陣を表明しており、誰がそのイニシアチブを執ったのか理解できない側面もあります。
フランスとロシアの立場
フランスに関しては、中東政策が微妙なところです。
主な原油輸入国であるリビアで先日、クーデターらしきものが発生しています。
このため、リビア一国に原油輸入を頼るのは非常にリスクが高いので、できればイラン制裁はしたくないのが本音でしょう。
ロシアの場合、経済を化石資源(石油、天然ガス)に頼っていますので、原油価格が上昇するのは歓迎でしょう。
しかも、ドル安傾向が続いても原油輸出の代金はルーブルで受け取っていますので、為替変動による代金の減少はありません。
ただし、中国との関係もありますので、フランスと同様、それほど積極的になれないと想像します。
中国の姿勢
中国に関しては、ご存知の通りアメリカと貿易戦争を行っている最中です。
しかも去年のイラン制裁に際して、アメリカにイランからの原油輸入の猶予を認めてもらった恩義もあります。
今回の米中摩擦の中でレアアースの貿易振興を謳っていますが、これは戦略ではなく苦肉の策になります。
つまり、貿易がダメになるであろう現在、次なる稼ぎ場はレアアースと宣言したのです。
レアアースは世界中で供給懸念があり、結果としてその市場を握れば覇権を取ることができるから、赤字だらけの資源事業に注視すると言っているのです。
今回のこの苦肉の策、本当にうまく行くのかと問われれば、非常に疑問になります。
前回レアアースの輸入規制を制裁によって解かれているからです。
八方ふさがりのような状況で、本心ではアメリカに対抗したいでしょうが、実際に公の場で逆らうことができるのか、というのが非常な疑問です。
国連制裁発動のゆくえ
常任理事国の状況は上記のようになっており、拒否権を発動する国の候補はフランス、ロシア、中国となり、イランへの制裁が発動されるかは非常に微妙です。
現時点で、国連によるイラン制裁が発動されるか否かは、全く読めません。
そもそも、イランはイラン核合意に違反していないというのが国際社会の認識であり、単にアメリカがイスラエルの国体を維持するためにわがままを言っているということを国際社会は理解しています。
つまり、トランプ大統領が国連安保理に提訴しても、その制裁が通る可能性は小さいということです。
アメリカは粛々と開戦手続きを踏んでいる
アメリカは、国連安保理でイラン制裁が否決されたとしても、全く意に介さないでしょう。
これは、国際社会での紛争解決ルールの手順に則っているだけだからです。
紛争が起こった当事国と当事国を安保理の議論の遡上に乗せることが紛争処理の手段になります。
例えば、尖閣諸島や竹島の問題などで日本が国際司法裁判所に提訴するというのは、仲介機関によってその善悪を判断してもらうという手続きの一環です。
アメリカがやっていることは、交戦に入る前にとりあえず、仲介機関である国連安保理によって正当性を国際社会に認められればもうけもの、程度の考えです。
認められなくても、自国の利益確保のために戦争に突入するでしょう。
実際に言いがかりだろうが、わがままだろうが、まず国際的な仲裁機関に仲裁を求めるのが、戦争開始の手順であって、それをアメリカは忠実に実行しているだけです。
開戦は近く、止める者はいない
国連安保理の開催によって、戦争回避の準備に入ったという印象でしょうが、実際のアメリカは、交戦の準備を国際社会の手順に則って行っているだけです。
すなわち、交戦は近いことになります。
この行く末は①の仲介国という国連安保理が遡上になっていますが、結果がどうであれ、交戦の準備を始めたと捉えるのが通常で、危機が増したという認識のほうが正しいです。
これが第三国の場合、アメリカは世界の大国で、イランは中東の大国になりますので、この両国を仲介するのにはそれなりの大国である必要があります。
そこで日本に白羽の矢が立ったのですが、結果は失敗でした。
第三国とはそれなりの大国になり、その国が仲裁したのに戦争を始めてしまえば、戦後の親交に支障をきたすことがありますので、その第三国の顔を立てるという意味では相当な効果はあります。
しかし現在、候補はいません。
国連に仲裁を求めるということは、戦争の準備に入ったことを意味します。
②についての解説
以前の解説ではわからない方も多いと思いますので、少し丁寧な解説をしておきます。
イランは現在、二重権力構造になっています。
それは、最高指導者であるハメネイ師と、行政の長である大統領のロウハニです。
ハメネイ師 管轄 イスラム革命防衛隊
ロウハニ大統領 管轄 イラン軍 ※ポンペオ国務長官などはイラン政府と交渉している
今回、日本のタンカー攻撃の主犯は、イスラム革命防衛隊というアメリカの主張になりますが、アメリカは革命防衛隊の指揮権のないイラン政府、ロウハニ大統領側の政府と交渉しているのです。
実際に攻撃したのが革命防衛隊とすれば、交渉相手はハメネイ師になりますが、ハメネイ師はあらゆる交渉を拒否しています。
双方の譲歩はあり得ない!?
アメリカ側はポンペオ国務長官を筆頭に、イラン政府と交渉しているのですが、本来の交渉相手はハメネイ師の枢密院側になります。
しかし、交渉を拒否しているのです。
アメリカは譲歩の可能性を示しているのですが、ハメネイ師が拒否しているので、双方の譲歩によっての戦争回避は現状ではあり得ません。
これが打開される条件は、ハメネイ師が交渉を宣言するほかないのですが、しようとしません。
すなわち、ハメネイ師が交渉に応じなければ、②の条件は進展がないのです。
今回、アメリカが国連提訴に踏み切った理由は、双方の譲歩を期待しているアメリカが、どうにもならないから国連に提訴したということにも読めます。
米-イラン戦争と金価格に関して
金の価格が現在高騰していますが、1992年の湾岸戦争のときは、戦争が勃発した瞬間が高値になりました。
つまり、過去の経緯から、金の価格は交戦が始まる前までは高い可能性があるということです。
コメントを残す