イギリスの政治が混乱する理由

イギリスの実効為替レート

イートン、オックスフォード、ロンドン市長と、エリート街道まっしぐらのイギリスの新首相ボリス・ジョンソンが苦しんでいます。

あの粗野な風貌と言動がアメリカのトランプ大統領と似ていると一般的に言われていますが、実際はどうなのでしょう?

そして、どんなにジョンソン首相が苦しもうと、最終的にはイギリスがEUから離脱することには変わりがないと考えなくてはいけません。

以前にその理由は説明しましたが、新たに皆さんにもわかるグラフを見つけましたので、ご紹介していきます。

上記はイギリスの実効為替レート、1994年1月から2019年8月までのものです。

参考までに、中国の実効為替レートも添付しておきます。

中国の実効為替レートは21世紀に最も躍進したのですから、このような形になるのは不思議ではありません。

何を申し上げたいのかと言えば、通常の国は、中国のように時代の変遷に伴い上昇していくものですが、イギリスは真ん中の値が大きく、両端が凹んでいることが非常に特異です。

では、イギリスのこの線はどうして生まれたのでしょうか?

これを理解すると、今後のイギリス情勢を理解できるようになります。

まず、イギリスは1996年くらいから急速に実行為替レートが上昇しています。

この理由は、ユーロという通貨が誕生したのが1996年なのです。

このときは試験流通で、今の仮想通貨みたいなもので、本格的に流通したのは1999年からになります。

イギリスはEU加盟によって国力が大きく増大したのです。

当初は成功だったイギリスのEU加盟

当初、イギリスのEU加盟は成功に見えたが…

イギリスの国論を二分した、EU加盟か非加盟かの結果は、非常に大きな結果をもたらしたことになります。

マーガレット・サッチャー首相ががビックバンと言われる金融改革を行ってもこれほどの成果は得られていませんが、EU加盟によって100程度だった値が、ピークで130になっているのです。

10年間で3割も経済が成長したのですから、相当な成功でした。

ほかのドイツ、フランス、スペイン、ポルトガルなどのEU参加主要国も同じです。

中国は、2006年の90くらいから2016年の10年間で130まで行っているので、中国と同列程度の成長を果たしました。

新興国が工業国に転換してからの成長が一番目覚ましいと言われますが(上記の例では中国)、イギリスのように工業化をある程度達成した成熟した国でも、経済統合によってこれだけの成長を遂げたのです。

数字上は中国に負けていますが、中国の人口は13億人、イギリスはたかだか5000万人程度で達成してしまったことに、この数字のすごさがわかります。

トランプとボリス・ジョンソンは違う

2019年6月4日、ロンドンで行われたトランプ大統領の訪英に抗議するデモで掲げられたプラカード

参考までに、トランプ大統領は環太平洋貿易条約(TPP)を破棄し、2国間の自由貿易協定を締結したがっていますが、昨今のイギリスの失敗を見れば明らかのように、多国間貿易交渉が良いのは最初だけということを知っているのでしょう。

FTAを結んでも、おそらくTPPのような多国間の自由貿易協定は結ばないだろうと予測できます。

ある程度FTAを結んでしまえば、その後、トランプ大統領は多国間の自由貿易協定に移行するはず、なんて言っている専門家がほとんどですが、イギリスやEU加盟国の悲惨さを見れば、移行するわけがないのです。

トランプ大統領の選択は、きちんとエビデンスがあり、決して思いつきでやっているものではないということを承知すべきです。

一方でボリス・ジョンソン首相は、いかに「何の戦略もなく」イギリスを導こうとしているかが、おわかりになると思います。

トランプ大統領には戦略がありますが、ジョンソン首相には戦略の欠片も感じません。

この点は後述します。

EU加盟に至ったそもそもの経緯とは?

1979〜1990年までイギリス首相を務めたマーガレット・サッチャー

EU加盟によって、イギリスは繁栄を謳歌しましたが、その前に、加盟に至る道に関してもある程度説明しておかなければいけません。

イギリスは、第二次大戦で国土のほとんどが焼尽化し、基軸通貨もポンドからドルへと移行しました。

その後も凋落は続き、代表的な例が中東地域の植民地の国連統治への変更です。

イギリスの統治が不能になると、オイルショックが起こったのは記憶に新しいでしょう。

当時のイギリスを支えていたのは中東の植民地で、それを失えば国力が落ちます。

また、世界に先駆けて産業革命を起こしているので、綿製品などの工業品を輸出し、石油を輸入していましたが、その経済モデルが崩壊したので凋落は必然です。

そこで誕生したのがサッチャー首相で、金融はじめさまざまな改革を断行しましたが、結果はEU加盟よりは成果が下降になります。

それほど、イギリスにとってEU加盟は大きな事件でした。

以上を端的に言いうと、1970年代までは中東市場で国家を運営し、それを失って凋落するも、EU加盟でヨーロッパという新市場を得て再び隆盛したのです。

現在のEUとイギリスの状況

今、ブレグジット再投票を行っても結果は見えている

今回の場合、リーマンショックや南欧債務危機によって、そのヨーロッパ市場が崩壊しました。

現在のイギリスの実効為替レートを見れば明らかですが、EUへの加盟効果がありません。

言い換えれば、1994年と同レベルになっているのですから、EUに残留する意味があるのかということです。

ブレグジットの投票が行われた2016年6月は、リーマンショック、南欧債務危機、チャイナショックから世界経済が多少は立ち直っていました。

EUに加盟するメリットがまだこれから大きくなるかもしれないということで、結果はご存知のように接戦になりましたが、今投票をやって前回同様に接戦になるのか、皆さんはもうおわかりのことと思います。

現在のイギリスにはEUに残留するメリットなど何もないので、おそらく選挙を行えば、圧倒的多数で離脱が可決されます。

離脱後の青写真を描けていないイギリス

2016年7月から3年にわたって首相を務めたテリーザ・メイ。EU離脱に失敗した

イギリスがEUを離脱する理由は明らかです。

EUに加盟したのは、中東の権益を失い、マーケットも同時に失ったので、活路をヨーロッパに求めただけです。

しかし、そのヨーロッパもリーマンショック、南欧債務危機、チャイナ・ショックなど相次ぐ事件によって利益を得られなくなったので、新しいマーケットを求めてイギリス国民は離脱を決定したのです。

ボリス・ジョンソン首相の「国民投票の決定をムダに長引かせることはしない」というのはもっともな意見のように聞こえますが、では、イギリスはEUを離脱してどうするのか?

中東の権益を失い、ヨーロッパに活路を見出したまではよかったのですが、今回の場合は、ヨーロッパを見限った後にどうするのかという方針が前首相のメイ、そして今回のジョンソン首相には明確な絵を描くことができていません。

ヨーロッパを捨てて、どこに活路を見出すかのアウトラインが示されていない状態で、ただ「国民投票で決まったから、離脱、離脱」と言って、誰がついてくるでしょうか?

ボリス・ジョンソンの無定見

7月24日から第77代首相を務めているボリス・ジョンソン

今のイギリスの混迷とは、将来を担保する安全材料もなく、「離脱、離脱」と叫んでいるだけです。

将来の収入の保証もなく会社を最初に辞めるなんて発想は、普通の人にはなかなかできません。

相当な勇気を持たなければ決断できないのに、ジョンソン首相は「国民投票の結果だから」とそれを推し進めようとしているだけです。

会社を辞めるということは無職、無収入になることを喜ぶ人がどこにいるのでしょうか?

ほとんどの人は不安が先立ち、何もないのであればまだ残留したほうがいいと思うのが普通です。

ですからイギリスの議会は紛糾しているのです。

このまま行けば、いくらエリートでも、単なる風貌通りの無法者という評価しかイギリス史には残らないでしょう。

スムーズにEUを離脱するためには

混迷するイギリス。ただし進むべき道は一つだ

離脱をスムーズにする方法は非常に簡単です。

「イギリスは貿易パートナーとしてどこそこを選択し、そのパートナーシップを維持して発展、成長を促す」と宣言すればいいのです。

そこに賛成する人が多数であれば、簡単に離脱できるでしょう。

しかし、国民投票で決まったのだから離脱しなきゃいけません、という現状の論理に一体誰がついて行くでしょうか?

それだけの話を複雑に考えすぎなのです。


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