議会内閣制度

今回は、イギリスのブレグジットで争点となっている議会の仕組みについて解説します。

東京都千代田区永田町に立つ国会議事堂

義務教育では、日本の国会は参議院と衆議院の二院制であると学習します。

しかし、二院制にする必要があるのかというのが誰しもの疑問ではないでしょうか。

日本における二院制の成立過程

日本の参議院議場

明治憲法下の帝国議会では、貴族院と衆議院の二院制でした。

そもそも二院制がなぜできたのかといえば、税金を払っていた人がほとんどいなかったので、貴族院しかなかったのです。

特権階級である貴族しか税金を払っていなかったので、その貴族しか政治の世界に参加できませんでした。

その後、国民があまねく税金を払う制度に変化し、衆議院が開設されたのです。

ただし、払う税金は貴族のほうが多かったので、昔は貴族院のほうが優越性がありました。

参考までに、貴族院とは今の参議院で、政府の高官を昔は「参議」と呼んだことから、参議院になりました。

昔、女性に参政権がなかったのは、そもそも女性で税金を払う人など皆無に近かったからで、女性の社会進出に伴い、参政権が認められるようになりました。

下院の優越性について

アメリカ議会における上院(UPPER HOUSE)と下院(LOWER HOUSE)の配置

その後、大衆が支払う税金のほうが多くなり、より民意を反映していることから、衆議院のほうが優越となりました。

このことはアメリカやイギリスも同じで、日本の衆議院に当たる下院のほうに優越性があります。

上下院がある国では、よく下院のほうが力を持っているのはこうした理由によります。

日本でねじれ国会になった場合、衆議院の優越性から、参議院で否決されても3ヵ月を経過すれば衆議院の決定が国会の決定になるのです。

2016年に国民投票で決定されたブレグジットの審議は、主に下院でなされ、上院はほとんど無視されています。

その理由は、下院に優越性があり、上院が下院と逆の決定をしても、時間経過とともに上院の決定は覆されるからです。

現在のイギリス上院は間違いなくブレグジットで一致しているので、下院での審議がトピックになっているのです。

二院制の利点

イギリスの二大政党である保守党(左)と労働党(右)のロゴ

二院制とは、旧制度の名残であることを理解されたと思います。

この二院制が一番安定、発展しているのがイギリス議会であると一般的に言われています。

この利点は、国民にはさまざまな意見があり、それを二大政党によって色分けし、行政が執行しやすくなる点です。

つまり、ある議案に対して、反対か賛成かの決定を議会が決定しやすくなるという利点があります。

日本でも小選挙区制が導入されましたが、導入理由は、小選挙区であれば与党、野党の意見の差がつきやすくなる点にあります。

例えば、国民意見が賛成51%、反対49%になった場合、ときどきの状況によって得票はすぐに変わります。

しかし、小選挙区制では、国民の意見は51:49であっても、それを議会定数によって振り分けると、だいたい7:3くらいの議員比率になってしまうのです。

この7:3の割合だと、何かの事件によって賛成、反対がひっくり返らなくなるのです。

よく日本の小選挙区制度は自民党の横暴であるという意見を耳にします。

しかし、第一次安倍政権で何も決められない政治が社会問題化しましたが、これは衆参のねじれが大きな原因で、国政が停滞するという問題が生じます。

ところが、議員数に圧倒的な差があると、執行が非常にやりやすくなるのです。

二大政党制の問題点

2019年に改修に入ったイギリス議会

日本では現在、自民党が圧倒的多数ですので、議会で大きくもめることはありません。

しかし、アメリカやイギリスでは二大政党の力が拮抗しており、また議員総数も拮抗しているので、すぐに政権交代が起こり、行政が停滞するという問題点があります。

今のブレグジット議会などはその象徴でもあり、離脱派の中にハードブレグジットに反対であったり、「ソフト・ハードなど関係ない、早急に反対するべきだ」という意見もあるのです。

つまり、議会はすでに離脱に向けて審議すべきなのに、いまだにEU残留を訴える議員がいるという不可思議な現象が起こっています。

イギリスの議会は世界でも安定している評価で、イギリス議会のことをウエストミンスター議会といい、「世界に冠たるものだ」という人もいるくらいです。

そもそも国民投票によってEU離脱は決定事項なのに、それに反対する議員がいるのは、民主主義制度を根幹から否定するものであり、議員の資格要件を満たしていない者が堂々と主張するという支離滅裂になっています。

しかも、離脱反対の労働党議員の中にも離脱賛成がいるというような、メチャクチャな状況です。

袋小路に立たされる二院制と二大政党政治

アメリカの二大政党、共和党のシンボルであるゾウ(左)と民主党のシンボルであるロバ(右)

もともと二大政党とは、議会の安定運営を担保するものだったのですが、二大政党にさまざまな意見が反映されて、にっちもさっちもいかなくなっているのが現状です。

つまりは二大政党自体が今の時代にマッチしなくなっていると言えます。

にもかかわらず、日本の野党はいまだに二大政党にこだわる時代錯誤の人たちです。

これはアメリカも同様で、二大政党とは立法、修正などの議案をスムーズに進行させるための制度でした。

昔は法案が議会を通過する可能性は40%でしたが、現在では10%も通過すればよいほうです。

つまり、二院制や二大政党制が完全に限界に近づいてきているのです。

二大政党、二院制によってより多くの意見が集約でき、運営も安定的になったのが、今では人々の意見が多すぎ、それを議会で集約できなくなっているのが世界情勢なのです。

今後の課題としてのポピュリズム

イギリスの自由民主党(自民党)党首であるジョー・スゥインソン

今のイギリス下院は、首相が解散したために選挙運動中になります。

しかし、現状の情勢は労働党、保守党ともに過半数の票数を集められない見込みです。

ほかの自民党を筆頭とする野党勢力の拡大が見込まれ、離脱は選挙によって確定的になると思われます。

しかし、議会で離脱を決定するのにはまだ時間がかかるでしょう。

なぜなら、ハードなのかそれともソフトなのかの議論で、新議会がスタートしてもまたもめることでしょう。

「日本には関係ないじゃん」と思っている人も多数でしょうが、つい先日の参議院選挙によって明らかになったN国党やれいわ新選組などのポピュリズム政党の台頭が、次回の選挙では台風の目になってくるでしょう。

こうなると、彼らの主張も政策に組み込まなければならずに、日本もポピュリズムの影響を受けて立法が停滞することが見込まれます。

決められない政治へと向かう世界

今年3月に行われたタイの総選挙を前にバンコク市内に掲げられた候補者たちのボスター

アメリカはおそらく現時点ではトランプ再選が濃厚で、大統領が共和党であれば議会が民主党になるのはいつものことですが、これも政策決定の遅延が見込まれます。

これは日本におけるねじれ国会みたいなもので、何も決められないことになるでしょう。

それでも日本やアメリカはまだ決定ができる状態ですが、最近、選挙が行われたタイ、イスラエル、イタリアなどは連立さえも組めないような状況であり、再選挙が見込まれています。

つまり、世界の政治状況は決められない政治に一気に突き進んでおり、政治の空白が見込まれる状況になっているのです。

おそらく、新しい民主主義が令和の時代には見込まれることになります。

今までは二大政党、小選挙区、二院制によって、より民意を反映させてきた政治の世界ですが、今後は民主主義の発達に伴い、より混沌としてきているのが現状です。

その理由は明快で、民意を反映させ、決定を早くすることによって、政策を担保する方法がないのです。

もっと言えば、新しい民主主義の決定がないから、この令和の時代はさらに民主主義が混とんとすると言っています。

小選挙区、二大政党、二院制のほかに、民主主義を進化させるシステムが必要になっているのです。

イギリスのブレグジット

下記のグラフはイギリスの過去25年にわたる実行為替レートの推移です。

イギリスは1970年代にさまざまな植民地を解放した結果、アメリカに覇権を明け渡すことになりました。

それがユーロ誕生に伴い国力を回復し、リーマンショックによってヨーロッパの力を失い、現在に至っています。

ユーロ誕生は、確かにイギリスを利するものになりましたが、リーマン以降の低迷は戻ろうとしません。

わずかに南欧債務危機によって国力を回復したように見えますが、結局、中国の不景気入りに伴い、また実力が剥落している状態です。

このような状況でブレグジットが成立しました。

金保有国とイギリスの発展

非公表ではあるが世界最大の金保有国は現在、中国と言われている

第一次世界大戦から1970年代まで、イギリスは南アフリカを筆頭に金埋蔵量が一番多かった国を支配下に置き、覇権を握りました。

ユーロに加盟した1990年代以降は、バチカンを筆頭としたヨーロッパ諸国が金の保有が一番多いと一般的には言われました。

このようにイギリスは、過去に植民地やヨーロッパなど金の保有が多い地域から経済的利益を得てきました。

2010年以降くらいから世界の埋蔵、保有が一番多いのは、一般的に中国と言われています。

植民地から利益が得られなくなるとヨーロッパに行き、今度は中国…。

現在、経済が低迷していて、先行きに不安を持つ方は多いですが、日本で報道されているほど中国は怪しい国ではありません。

ただ、政治的なシステムや文化の進化が決定的に遅れているだけです。

そして、この中国はわけがわからない国という世界の意識が、イギリスのブレグジットを決定的に遅らせているのです。

イギリスの未来、議会制の将来

ブレグジットを境に手を握るであろうイギリスと中国

将来、中国は欧米、日本並みの政治システムに変更されるでしょう。

ただし、その変化の度合いがあまりにも遅いことがブレグジットで混乱する原因になります。

過去の歴史から、イギリスは金の保有が多い国とパートナーを組む傾向があり、ブレグジットが決定した瞬間から、中国とパートナーを組む道を選ぶことになるでしょう。

つまり、政治は世界を動かしますが、人間がより豊かな暮らしを営みたいという基本的欲求に左右されている点に気づけば、イギリス国内でこれだけ議会に決定する力もなく、その委託を受けた内閣、行政も議会が決定できないことに拠って混迷していますが、そこが問題となっているのです。

間違いなく、議会制度は近いうちに激変するでしょうし、ブレグジット後はイギリスと中国の接近となるでしょう。

もっと言えば、イギリスと金は切っても切れない縁があり、ロンドンに金の現物市場の最大のものがあるのも変わらないということになるでしょう。


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