金価格と金利の関係
今まで、金の価格は金利が安いと高く、金利が高いと安くなると解説してきました。
皆さんの理解度はいかがでしょうか?
では、いじわるな質問をしましょう。
なぜ、金利が安いと金価格は高くなるのでしょうか?
上記はいつものように金(黒、左軸)、金利(金利、右軸)です。
金利の下げが急になるたびに金の価格が上昇し、金利が急騰すると金価格が下がるのがおわかりになるでしょう。
11月20日の外電で、ウィリアムズNY連銀総裁が「12月のFOMCでの利下げの可能性は低い」とコメントしたことから、金利が急低下し、反相関の関係にある金価格は当然、急騰しました。
この法則は、自然なものとして受け入られるようになっていますか?
受け入れられていない方は、金利と金価格の関係をこれから毎日観察すれば、なんとなく明日の金価格がわかるようになってくるでしょう。
法則は絶対か?
法則といっても、常に100パーセントの結果になるわけではありません。
水は高いところから低いところに流れるという法則が存在しますが、これは100パーセントの法則ではありません。
理由は、前提条件として地球の重力があるからです。
重力がない宇宙空間では、水は宙に浮きます。
つまり、あらゆる法則には必ず、その法則が存在する前提条件があり、その前提条件が成立している限り、水は高きから低きに流れるのです。
法則の裏には必ず前提条件がある
なぜ、このようなことを書くのかといえば、金利が安くなると金価格が高くなるのは100パーセントだと信じ込んでしまう人が多いからです。
そして、金利が先安観測だからと金を買うと、実際には金価格が上がるどころか下がってしまい、大損してしまうケースがこれから必ずあります。
なぜ金利が安くなると金価格が高くなるのかを理解していなければ、万が一の場合は破産の可能性もあるくらい危険です。
これは、AIにも言えます。
AIは、データを集積して得られる結果を推測するものですが、その因果関係がきちんと説明できないと、分析される結果が真反対になる可能性があります。
ゆえに、因果関係を知りもせずにAIを安易に信じると、救いようのない失敗を冒す可能性があるのです。
つまり、世の中には100パーセントの法則など存在せず、その法則が存在するのには前提条件がマストになります。
金と金利の場合も理由があるわけで、それをきちんと理解しておくことで、金利が安くなる見込みだからと安易に金を買うなんてことはせずに、金利が安いけどそれが前提条件に見合っているかを確認すれば、リスクは格段に低くなります。
まずは先渡取引の説明から
先物取引とは、先渡取引(フォワード取引)の進化系です。
例えば、あなたが金の生産者だったとして、生産、採掘、精錬などを行う資金がないとしましょう。
その場合、銀行から資金融資を受けることになります。
銀行は喜んで融資するでしょう。
なぜなら、あなたは金鉱山の所有者であり、担保になる金を持っているので万が一のときの貸し倒れリスクがないからです。
あなたは銀行の融資を受けて生産を開始し、金を売却することによって代金を受け取ります。
しかし、その代金の中には、銀行に返済しなければいけない金額をも含まれており、結果として元金(借りた金額)+金利を返済しなければいけません。
金利が低くなると金が高くなる理由
金利が下がった場合には返済金額が減ると考えがちですが、そうではありません。
この場合、私たちが論じている金利とは、国が借金する場合の金利であって、民間企業の借金は、企業の信用度合いもありますが、国債金利よりも高いのが通常です。
どういうことかと言えば、国が借りるお金の金利が1%の場合、民間の企業がお金を借りる場合は1%以上になるのです。
ここでは2%としておきましょう。
つまり、市場で金利が1%であった場合、実際の企業が借りる金利は2%になります。
グラム1000円の金を採掘して生産・販売する場合、販売価格は1000円でいいのですが、コストが2%かかりますので、実際には1002円にしないと見合いません。
その2%は、業者が金利上昇分を負担しなければいけないのです。
コストの上昇は、経済原論では消費者が負担するのが通常です。
金利は市場状勢によって決まりますので、企業の経営者はコントロールできない反面、販売価格は販売者の都合によって決定することができます。
つまり、金利が下がれば販売価格も下がるのですが、それだと収益の見込みがしにくくなり、経営者は、現状の収入を維持するために販売価格を引き上げるのです。
これが、金利が下がると金価格が上昇するメカニズムになります。
金価格と金利の逆相関の前提条件
金利が1%低下すると、金価格は同様に1%上昇するのですが、この説明は間違いです。
なぜなら、金利の1%とは、一番信用のある国家が借りる金利であり、企業の信用は国の信用よりも下になるのが通常ですので、実際の借り入れは2%でしていることがほとんどです。
ですから、金利が1%下がれば、実際の金価格は1%+α上昇するというのが正しい表現になります。
つまり、金利の下げ以上に金価格は必ず上昇するのです。
水が高いところから低いところに行く条件は重力でしたが、金価格と金利の場合は、金の生産者が金を販売する際にお金を借りているから、金利が下がると金価格が上昇するのです。
金の生産者がお金を借りずに金の生産を行っていれば、この方程式が崩壊することを覚えておかなければいけません。
金の生産国は共通して金利が高い
金の主な生産国は中国やオーストラリアで、かつては南アフリカなどがありました。
これらの国の共通点として、金利が高いことが挙げられます。
現在、中国は6%、南アで8%、豪で2%弱になります。
日本のゼロ金利、ないしはマイナス金利と比べれば異常に高いのがおわかりになるでしょう。
つまり、仮に南アの生産者が8%の金利+αの値上げをしないと、収益が赤字になってしまいます。
ゆえに、金利が下がると金の価格が異常に上昇するのです。
金の生産国の大半は新興国ですので、ほとんどの生産者は自前の資金を持っておらず、大部分が銀行融資を受けたり、株式市場から調達しているのです。
先物価格表の意味
前段で先物取引の説明をしましたが、下記は東京商品取引所の金の先物価格です。
取引日:2019年11月20日 単位:円(1グラムあたり)
限月 前日帳入値段 始値 高値 安値 現在値 前日比 出来高 帳入値
2019/12 5,132 5,132 5,138 5,124 5,138 +6 11 -
2020/02 5,137 5,131 5,136 5,130 5,136 -1 8 –
2020/04 5,139 5,128 5,137 5,118 5,136 -3 327 –
2020/06 5,140 5,132 5,136 5,122 5,135 -5 105 –
2020/08 5,135 5,132 5,138 5,119 5,135 +0 510 –
2020/10 5,132 5,127 5,135 5,115 5,132 +0 9,723 –
合計 10,684
一番左端の限月とは受け渡しの日付となり、「2019/12」は実質の現物価格になります。
それに対して先物とは、基本的には一番期限が長いもの、このグラフでは「2020/10」に受け渡すものを指します。
この2019/10月と2020/10月には約1年の期間があり、その価格差は基本的には1年物金利の格差があり、例えば、現物が1000円で1年物金利が1%の場合、1年先の金の価格は1010円です。
業者はこの先物を1010円で売り、実際の販売は1000円なのですから1000円で買い戻すのです。
その差益10円を利益として計上します。
10円なんてバカバカしいと思われる方が多数でしょうが、実際はキロ単位で販売しますので、10円×1000=1万円の利益が計上されます。
日本の短期1年物金利は現在0%ですので、上記の先物価格は1年先物価格は現物価格(2019/12)と先物(2020/10)と一緒の価格になるのです。
アメリカの場合、1年物金利が現在1.5%になりますので、現物が1000円だとすれば先物は1015円になるのです。
この差15円が業者の利益になります。
金の現物と先物の鞘とは、すなわち金利差を示しているのです。
販売者としてはできるだけ高く販売して借金を返済したいのですから、金利が下がるたびに必要以上に販売価格を上げる、だから金が昨今高騰する理由にもなるのです。
この価格変動はほかの商品でも同様!?
実は、この金の販売システムを精錬、販売業者をプラチナ、パラジウム、そして原油価格に置き換えても同じことです。
すなわち、生産者にお金がなく、銀行融資を行ってから販売する場合、金と同じことが起こります。
白金やパラジウム、原油などの外電も上昇しているのは、金利が下がったため、販売者が必要以上の販売価格の上昇を行う見込みだからです。
つまり、金利が下がれば金価格だけが下がるのではなく、貴金属や原油までも上昇してくるのです。
この前提条件は、あくまでも販売者が借金によって生産、販売活動を行っていることが前提条件になります。
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