イギリスの二大政党制と日本の旧民主党系

旧民主党の連中が、マニュフェストだのアジェンダなどとわけのわからない用語を使うのは、民主主義の祖が世界的にイギリスだといわれているからです。

今回は、12月にひかえたイギリス総選挙のゆくえと、イギリスの政治状況の解説を行います。

イギリスの二大政党である保守党(左)と労働党(右)のロゴマーク

イギリスの民主主義は、保守党と労働党に代表される二大政党制の言葉で代用されることが一般的です。

民主主義を効率的に運用するのであれば、二大政党制を運用するのが適切という考え方であり、日本も自民党から民主党への政権交代が起きました。

つまり、イギリスの議会制度にならい、日本でもその二大政党の流れを作ろうというのが旧民主党の考えですので、イギリスで多用される選挙用語を使い始めたのです。

旧民主党系の体たらくとソ連崩壊という世界的な潮流

ベルリンの壁跡にはめ込まれた看板

国民的には、マニュフェストだのアジェンダだのわけのわからないヨコ文字を使う前に、いったい何がやりたいのかをはっきりさせよというのが本音ではないでしょうか。

聞いていると、自民党の敵失に文句ばかり言い、何がやりたいのかさっぱりわかりません。

これは世界的な潮流であり、1989年前後のソ連崩壊やベルリンの壁崩壊から、共産主義への夢想が終わってきています。

日本の社会党も壊滅的な打撃を受け、左寄りの考えから中道に移行した結果、民主党が誕生しました。

その民主党が、眼を覆うようなことが迷走状態であることは誰の目にも明らかでしょう。

イギリスも同様です。

かつて、イギリスは右寄りの自由党と保守党による二大政党でしたが、1970年代の共産ブームによって自由党が解体され、労働党が躍進しました。

しかし、ソ連の崩壊、東西冷戦の終了から、左寄りの考えが支持されなくなったのです。

サッチャリズムの時代

保守党初の女性党首で、初の女性首相として1979年から1990年まで在任した「鉄の女」マーガレット・サッチャー

当時のマーガレット・サッチャー首相が徹底的に左寄りの考えを排除したために、労働党の地盤低下が始まりました。

基本的に労働党は、イギリスで誕生した「ゆりかごから墓場まで」という言葉に代表されるように、福祉や社会保障の充実をうたった政党です。

しかし、激変する世界情勢の中、福祉や社会保障にかまけている予算がなく、サッチャーがその予算を削った結果、国力を回復しました。

これが今でもサッチャーが国民や世界から敬愛される理由になります。

大きな政府で福祉や社会保障関連予算を拡大しても国力は回復しない、それよりもサッチャーのように福祉、社会保障関連予算を削って自由主義、つまり競争を促すことによって、経済の回復を図ることが国力の拡大につながるとイギリス国民に広まりました。

この結果、日本の社会党と同様に、イギリスの労働党も地盤沈下していったのです。

若き指導者トニー・ブレアの登場で労働党新時代へ

1997年から10年にわたって首相を務めたトニー・ブレア

そこに登場したのが、41歳のトニー・ブレアでした。

彼は大きな政府の方針を変更し、小さな政府を目指して有権者の支持を取りつけたのです。

具体的にはスコットランドに立法府の設置を認め、ある程度の民族自治権を付与したことが転機でした。

単一国家は維持するが、自治によってある程度の自営を認めたことが国民から圧倒的な支持を受けたのです。

日本の社会党から民主党への移行は、こういったことが背景にあり、社会党の左寄りの考えから中道に政策を変更したことが、日本での野党の変遷と言ってもよいと言えます。

ただしバラ色の美辞麗句を並べて何一つ実現できなかったことが、日本の有権者の民主党嫌いの要因になっていることを、彼らは理解していません。

政策にしても、イギリスの労働党と保守党にそれほど差がないことと一緒で、明確な違いを打ち出せないのが旧民主党の現状です。

現状のイギリス労働党

2015年から労働党党首を務めるジェレミー・コービン

その後、リーマンショックなどを経て、サッチャリズムの期待を促し、再び労働党から保守党に政権移行が行われました。

リーマンショック発生時、世界の先進国のどこよりも早く金融緩和を実施したのは、スイスとイギリスであり、新自由主義の象徴でもある保守党の面目躍如でしょう。

この際に日本の社会党や民主党同様、イギリスの労働党でも内紛が起こり、結果、党首が現在のコービンになりました。

このコービンという人の主な考え方は大きな政府であり、福祉、社会保障の充実を志向しています。

国民からは、やはりイギリスも世界の例にもれず格差の問題があり、この問題での労働党の躍進を目指している党首です。

ただ、大きな政府を志向して失敗した経験を持つ国民からは見放されている傾向があります。

つまり、大きな政府を志向し、結果としてサッチャーが登場するまで貧困にあえでいた記憶をまだ忘れられない国民が過半である実情をコービンは理解していません。

ちょうど、日本の旧民主党が政権を取ったときに何をやったのかを忘れていると勘違いしているのと一緒です。

あの政権を支えた面子が指導部にいる限り、復権はあり得ないでしょう。

党首コービンが抱えるさらなる問題

2017年、ウエストヨークシャー近郊のリーズを訪れたコービンのもとに集った支持者たち

さらに、問題はコービンの党内基盤が弱すぎる点にあります。

労働党の党内規約では、党首選に出馬するために国会議員の推薦を多数集めなければいけないのですが、コービンはその支持さえも集められないほどの弱小の指導者です。

では、なぜコービンが労働党党首として党内選挙になぜ勝利することができたのかといえば、前述したトニー・ブレアが党首選挙の国会議員の票数を徹底的に下げ、労働党サポーターによって実質的に選ばれるシステムに変更したからになります。

イギリスでも格差の問題は根深く残っており、大きな政府を志向するコービンの政策は、サポーターから絶大な支持を受けています。

どこかの国の野党がやっていることと全く同じ選挙システムです。

サポーターなどと聞くと当時は目新しく感じたものですが、単なるモノマネだったのかと知ると、愕然とするとともにその浅はかさを反省する想いです。

イギリスの議会がもめる原因はこの辺にあり、結果として、労働党からも造反者がいっぱい出るのは、コービン党首に党内をコントロールする力がないことがそもそもの原因になります。

メイ前首相はなぜ失敗したのか?

2016年から3年にわたって首相を務めるもブレグジットを成し遂げられなかったテリーザ・メイ

当時のデーヴィッド・キャメロンは、国民投票にてEU離脱が決定されたことを受けて、公約通り首相、保守党党首を辞任しました。

その結果、次期首相を決定する保守党の選挙が行われます。

このときに元ロンドン市長のボリス・ジョンソンが有力候補でしたが、彼の支持者が立候補したことにより、ジョンソンは立候補を辞退することとなりました。

しかし、その候補も評判がよくなく、予備選挙で敗退する結果となり、テリーザ・メイが首相になった経緯があります。

メイは上記の労働党の体たらくを見て、これなら選挙を行っても勝てると踏んだのですが、結果は敗北で、単独で政権を取ることができず、やむなく連立政権になりました。

つまり、国民投票でブレグジットが決定したのに離脱が進まない理由は、強力なリーダーシップを持った党首がいないことが最大の要因になります。

コービンには国会議員の支持基盤がなく、メイに至っては偶然の産物で首相になった人物です。

ジョンソンも「必ずブレグジットを達成する」と明言しましたが、その失敗を受けて総選挙に突入しました。

現代の民主主義国家におけるリーダー像

批判も多いが次々と問題を解決してゆくトランプ大統領

日本では小泉ジュニアが相当な人気がありますが、これは現代の選挙事情を如実に反映したものです。

2000年以降の民主主義下での選挙は、スマートに問題を解決した人が選挙に勝利するという傾向があります。

これは、小泉パパのワンワードポリティックスに代表され、「自民党をぶっ壊す」、「痛みなくして改革なし」などの言葉が有名ですが、今から見れば、自民党は存続していますし、改革して痛みを負担したのは庶民だけ、郵政民営化は逆戻り…。

父親は何も問題を解決していないのに、ジュニアの人気があれだけあるのは不思議なことです。

さすがに有権者からも、父親同様にジュニアの言っていることも何の意味もなく、単に格好よく見える言葉を吐いているだけという批判も最近は目立つようになりました。

つまり、現代の選挙とは、格好よく颯爽と問題を解決するリーダーに人気が集まる傾向があるのです。

その段で言えば、トランプ大統領などは典型であり、批判はたくさんありますが、颯爽と問題を解決している部分があるのではないでしょうか。

ロシアのプーチン大統領、トルコのエルドアン大統領、日本の安倍首相もそうだと言えます。

スマートさと颯爽さがないボリス・ジョンソン

「英国のトランプ」の異名もあったが、首相就任早々にブレグジットでつまづいたボリス・ジョンソン

翻り、イギリスのボリス・ジョンソンは「必ず年内にブレグジットを解決する」と約束していきなり失敗していますので、颯爽、スマートという感じには映りません。

寧ろあの風貌で、はっきり言えばトランプ大統領のような物言いで小泉ジュニアのようなスマートさがないわけです。

現状でジョンソンの保守党の支持率が高いといっても、スマートに問題を解決できる指導者ではなく、世論調査の結果を真に受けるわけにはいかないと判断するのが妥当です。

そもそもイギリスの世論調査は、ブレグジットは圧倒的な差で残留と出たのに結果は離脱、前回の総選挙も保守党の圧勝と出たのに惨敗ですので、信用するわけにはいきません。

予測を難しくするイギリスの選挙制度

2015年の総選挙で使用された投票用紙

イギリスで選挙予測がことごとくハズれる要因として、小選挙区制度が挙げられます。

日本でも主に衆議院で導入されていますが、勝つのは1つの選挙区で1人という制度です。

つまり、選挙区で勝った候補がその地域を代表する国会議員であって、少数意見は反映されません。

日本では比例代表制を併用することによって少数意見の拾い上げを行っている部分がありますが、イギリスでは小選挙区制のみで、少数意見の反映を照らした制度ではありません。

ただし、欧州議会選挙、つまりEUの代表会議に送りこむ議員には比例代表選挙を導入しています。

どう転ぶかわからない今度のイギリスの総選挙

2019年5月、UKIPによるブレグジットのプロモーション

今年に選挙が行われているのですから、その結果を見れば今度の総選挙もその結果は反映されるのですが、事情はそう簡単ではありません。

本当にイギリスが二大政党なのであれば、保守党か労働党が第一党になるはずですが、実際はイギリス独立党(UKIP)が第一党になっています。

次いで保守党、アイルランド独立党、労働党の順です。

つまり、小選挙区と比例代表制の選挙結果は全く違うのです。

同様のことはフランスでも起こっており、マリー・ルペン率いる極右政党は小選挙区では第3位の得票ですが、欧州議会の比例代表選挙では第一党になっています。

イギリスに話を戻すと、小選挙区は勝者総取りのシステムですので、保守党がこのほとんどを取ることができれば、保守党の地滑り的圧勝と言えることができます。

しかし、保守党の得票率は全体の30%です。

この得票では保守党が勝つなど明言できず、むしろイギリス独立党が第一党になる選挙区が多数あれば、保守党の勝利など10ポイントの差ではいくらでもひっくり返すことができます。

つまり、現在の労働党と保守党の支持率の10ポイント差など指標にも何もならず、どう転ぶかわからないということです。

わかっているのは、ジョンソンの圧勝の可能性は極めて少ないということくらいです。