イラン情勢でのメディア報道
イラン情勢の緊迫化によって、金のドル建て価格が1600ドルまで行きました。
しかし、そもそもなぜイランとアメリカは仲が悪いのかと思う方も多いでしょう。
今回は、その辺を解説し、今後のイラン情勢と金の価格を追っていきます。
イラン情勢の緊迫化によって、各メディアは「イランと戦争になったらどうなるのか?」という街頭インタビューを行っていました。
これを見たときに、テレビ局のあきれた見識と無知に驚いた方も多いでしょう。
イランとアメリカの間には戦争など起こるわけがないのに、あたかも事態が緊迫化したかのような報道を行い、中東に関して何も知識がない人たちを不安にさせた罪は非常に大きいです。
これを罪とは「大げさな」と思う方も多いでしょうが、法律には規定されてなくとも立派な犯罪だと思います。
いつも言うように、無知な人が扇動して大衆を不安に陥れることは大きな犯罪です。
不安になれば人間は通常の行動ができません。
不安心理にさいなまれ、それが大衆に浸透すると経済活動が停滞します。
無知なメディアの罪
現時点で起こるはずもない戦争を、あたかも起こるようなそぶりでインタビューを行い、結果として視聴者をガソリンスタンドに行列させるような事態を、あのような報道を行ったテレビ局のディレクターはどう思うのでしょうか?
きっと、何の反省もなくまた同じような行為を繰り返すのです。
つまり、無知な人間は知りもしないことを何でも知ったようなフリをして語るなと言いたいのです。
SNSによって、すべてのことをあたかも知っているようなフリをして、一見正しいような言質をして、支持を集めて何をしたいのだろうかと思います。
事実を整合させて、その上で未来を予測するのには答えは一つしかないのに、そもそもの事実を軽視して自分の感情論だけでロジックを展開する人が多すぎるのです。
言論の自由とは言うが…
こういう事実に反した人の言論などに自由が保証されるのもおかしな話です。
自由には責任が伴うと使い古された言葉を使いますが、何を言ってもよい自由なんてないのです。
きちんと事実と整合して、誰もがそうなるであろうと思うことを言うのは自由ですが、そもそも事実を歪曲してそれが言論の自由とか言っている人が多すぎます。
無理してガソリンスタンドに並んだ人たちの時間は誰が責任を取るのでしょうか?
自己責任とは言えないでしょう。
都合のよいときだけ自己責任という言葉を使うなと言いたいです。
これが大手メディアや大手企業の精神であり、自分さえ儲かればあとは知ったこっちゃないという、おかしな世の中です。
イランの問題はやはり歴史を理解しないと、今回の事件がこれだけ拡大したかわかりません。
だからイランとアメリカの歴史を知らないと、周囲に扇動されてロクなことをやらないのです。
実はイランは親欧米だった
第二次大戦後に国王のパーレビは親欧米化路線を進みました。
いわゆる民主化、自由、公平、平等などの欧米をモデルとした社会構築を目指したのです。
日本の民主化と同様なことが行われ、現在のイランの普通選挙はこの時代に構築されたものです。
中東で選挙が行われているのはイランとイラク、トルコのみで、いまだに選挙が行われていない国がほとんどです。
つまり、独裁者と言われる人たちが、自分の都合のよいように治世を行っている国がほとんどなのです。
オイルショックとイラン革命
このイランの体制がひっくり返ったのは1970年代のオイルショックがきっかけです。
それまでのイランは中東にない文化を取り入れ、試行錯誤をしながらも国家が安定を見せ始めた矢先にオイルショックが起こり、人々が生活苦や不満を抱いたのです。
そのときに亡命していたホメイニ師がイランに帰国し、革命を起こしたのがホメイニ革命になります。
ホメイニ革命によって親欧米化路線は一気に180度転換して、もとのムスリム、つまり宗教指導者による国家体制になりました。
その革命直後に起こったのが1979年のイラン、アメリカ大使館占拠事件です。
このアメリカ大使館占拠事件は大きく、今回のイラク大使館襲撃事件に関わっています。
つまり、アメリカにとっては重大事件なのです。
1979年のアメリカ大使館占拠事件
事件の概要は、国王のパーレビとその家族はエジプトに亡命したことによってホメイニ革命が成立したのですが、そのパーレビががんの治療のためにさらにアメリカに亡命しようとしました。
アメリカはイランとの関係を憂慮し、いったんは亡命を拒否したのですが、最終的にはパーレビを受け入れる決定を下します。
それに怒った民衆がアメリカ大使館を占拠し、大使館員などが人質にされた事件がイラン大使館占拠事件になります。
このときの様子はアカデミー賞をとった「アルゴ」に記されていますので時間があればご覧ください。
解決には444日間もかかり、今もアメリカ人の記憶に刻まれています。
今回のイラク大使館襲撃はこの事件を想起させるものであり、トランプ大統領がすぐさまにイラン革命防衛隊の隊長を殺害することによって怒りを鮮明にさせました。
実際に、イラク大使館攻撃の報を聞てこれはとてつもないことだと考えていましたが、すぐさまに報復が行われたことによって事態は収束したと考えました。
ですから、かなり飛躍していますが、通常イランとアメリカが戦争を起こすようなことはないと考えるのが、この背景を知っている人には当然のことなのです。
以下にその理由を記します。
産油国の勢力図
アメリカが世界最大の産油国であり、消費国であると言うと、驚く人が多いのにはびっくりします。
いまだにサウジやロシアが世界最大の産油国と言っている人が多いのですが、リーマンショック前からシェール革命によってアメリカが産油国ナンバー1になるのは規定路線で、数年前からアメリカが世界一の産油国です。
しかし、問題はそれだけではありません。
寒くなって温泉などが人気が出ていますが、同じ箱根温泉でも源泉によってお湯の質が違います。
箱根の強羅温泉でも、湧出する場所によって温泉の質は違うのに、同じ強羅温泉だという人がいますが、湧出地が違うことによって温泉の種類は全く異なるのです。
原油も同じで、湧出の場所が違うと全く違う種類の原油になるのです。
重質油は実質イランだけ
世界最大の産油国であるアメリカで取れる原油は、ほとんどがWTIに代表されるような軽質油になります。
軽質油とはガソリンや灯油、ジェット燃料などの白物石油製品が製造しやすい原油です。
一方でイランで産出される原油は重質油といい、主に火力発電所や船舶の動力などは重質油なのです。
つまり、重い原油がイランで主に取れる原油なのです。
日本などは原油の精製能力が優れていますので、重油からもガソリンや灯油などを精製できるのですが、後進国のほとんどは重油から白物石油製品を製造することができません。
よく日本の原油輸入の中東依存度の9割が問題と騒ぐ人たちがいますが、日本の原油のほとんどが火力発電所に使われており、重油はイランに頼るほかないのです。
ほかに重油が多く取れる油田はサウジやベネズエラになりますが、政情不安で安定供給に問題があります。
サウジは世界の需要を引き合いにあるので入手困難です。
ゆえに日本は重油がほしいのに、輸入相手先にロシアやアメリカにその需要を求めてもないものねだりなのです。
つまり、この中東依存度は変えることができないのに、何もわかっていない人たちがほかに輸入国を見つければよいとか言っているのです。
重油の主な産地で安定供給ができるのは、サウジのほかにイランしかありません。
イランは国際経済の一員
イランはグローバリズムの中に、国際経済の枠に組み込まれているのです。
ですから、アメリカとイランが戦争を起こすということは世界の経済に混乱をきたし、戦争はよほどのことがない限り起こりません。
日本と同じ事情の国は中国、韓国、ロシア、インドになります。
これらの国では国内需要を満たすためには、イランに頼らざるを得なくなっています。
重油の産地にはリビアがありますが、ここも近年内戦であり、安定供給には程遠い状況です。
ゆえに戦争は当面、起こらないと考えるのが通常の考え方なのです。
ただし、遠くない将来にアメリカは体制転換を図るか、サウジ・イスラエルとの戦争状態に持って行くのがいつものアメリカのやり方ですので、遠くない将来の戦争の事態を否定するのも間違っています。
イランの現況
下記はイランの鉱工業での稼ぎ方の10年間の推移になります。
イランにはほかにも鉱物資源がありますが、石油が主になります。
2014年に石油収入が急増していますが、これはイラン核合意によってイランが国際社会に復帰したことがわかります。
石油からの収入は倍以上になっており、今さらイランが国際社会から離脱することなどできないのが当たり前です。
事実、トランプ大統領がイラン核合意から離脱しても、イランの石油収入はほとんど変わっておらず、核合意は意味がないものなのです。
ヨーロッパやアジアを中心にイランとの石油交易は続けなければいけない状況であり、この状態でイランとアメリカが戦争を行ったらどうなりますか、ということです。
大混乱になるとわかっていて、トランプ大統領は戦争を始めるほどバカではありません。
ロウハニ大統領にしても、イラン核合意によって豊かさを手に入れているのですから、戦争を始めるというバカな選択肢はないのです。
つまり、起こるはずもない戦争を「起こる、起こる」と騒いでいるのです。
注意事項は…
ただ、注意事項は当面の間であり、このイランの石油収入が急激に落ちるようなことがあれば、戦争の可能性が出てきます。
日本の自衛隊海外派遣が急速に決まったのは、イランからの輸入をサウジやオマーンに代替する動きを先取りするものであり、この収入を見ていれば、いつ戦争が起こるかはわかるのです。
現状、戦争を始める気はトランプ、ロウハニ双方にないということです。
それを「起こる、起こる」という人たちは本質を理解していないのです。
ゆえに金の価格は金利とドルを横にらみで上下動するということです。
金利が低いので金の暴落はあり得ないと言っている通りです。
コメントを残す