中央銀行の金保有量と米ドル
上記のグラフは、左軸に各国中央銀行の1年の総計、右軸がドルの実効レートになります。
まずは用語の解説からいきましょう。
中央銀行が金を保有している理由
ワールドゴールドカウンシル(World Gold Council)という世界的な金の統計機関(WGC)には、金の需要サイドとして「中央銀行保有」という項目が必ず あります。
世界にはいろいろな金の統計機関がありますが、基本的にはどこの統計にも「中央銀行の需要」という項目があるくらい中央銀行には需要があります。
理由は各国政府が発行している通貨は単なる信用であり、また紙切れでもあります。
その紙切れは政府のおかげで信用があるのですから、国家が倒産したり破産したりするなど政府の信用がなくなれば、その価値を担保するために、金で信用の補完を行うのです。
倒産や破産の可能性がある国であればあるほど、中央銀行の金の保有量は上がります。
例えばトルコやアルゼンチンが今、倒産の危機が叫ばれていることは皆さんもご存知でしょう。
これらは単なる風説の類になるとは思いますが、万が一、銀行などの取り付け騒ぎがあった場合には、中央銀行が金を保有していることによってその取り付けが収まる可能性があります。
つまり政府の信用が少なくなった際、金を保有することでその騒動を少しでも小さくしたいという思惑があるため、どの中央銀行もある程度の金を保有しているのです。
ベネズエラを例にして。
ところがベネズエラのようにほとんど倒産寸前の国は、保有している金も売却をしなければならないくらいの財政状態です。
こういう政府がどうして年400%ものインフレになるのかと言えば、お金を担保する資産がないからになります。
だからお金が紙切れ寸前になり、酷いインフレになるのです。
インフレとは?
インフレーションとは、経済学においてモノやサービスの全体の価格レベル、すなわち物価が、ある期間において持続的に上昇する経済現象である。日本語の略称はインフレ。日本語では「通貨膨張」とも訳す。 反対に物価の持続的な下落をデフレーションという。 ウィキペディア
インフレの際には、その破綻寸前の現金を持っているよりも、価値ある商品を買ったほうが紙切れになるリスクは少なくなるという仕組みです。
では我が国日本は如何でしょうか。
そして我が国日本は?
日本の場合、余り金の保有がないのは、政府が財産を持ち過ぎだからです。
ほとんどの先進国では政府は財産を持ちません。
なぜなら持っていれば保有コストがかかり費用がかさむため、コスト削減のためにビルや建物を民間に売却して、使用料を払うかたちにしているのです。
たとえば公務員の公営住宅など、日本は余計なものをたくさん持っていますよね。
こういったものは民間に売却し、固定資産税などを徴収したほうが国にメリットがあるのですが、売却しない。
理由はさておき、この様に日本は規模に対しては財産がかなりあるので、金をそれほど多く保有する必要がないということになります。
要は日本政府は金持ちなので、これだけ借金があっても政府が潰れるリスクがないのです。
他に政府がこんなに財産を持っている国はありません。
実効レートの意味
貿易量などを換算してその国の通貨の価値を測るものが実行為替レートで、米ドルはドル実効レートとも言い、日本円の場合は円実効レートと言います。
そもそも為替は、ドル円レートのようにドルに対して110円という相対的な価値のことを言います。
円の価値はドルに対して〇円、ユーロに対しては〇円という表記をするのですが「円そのものの価値はいくらなの?」と問われてもそれを表現する手段がありません。
株などコンビニなどで売っている商品は、その存在そのものが売値になり、決して何かと比較をして値段をつけているわけではありません。
こういう値段の付け方を絶対的値段と言います。
『ドルの価値』といいますが、その価値は円やユーロ、人民元に対しての価値であって、絶対的な値段表示がなく、いつまでも相対的なのです。
経済を比較する場合それでは具合が悪いということで、実行為替レートやドルインデックスなどの絶対的指標が出現したのです。
その一つがドル実効レートで、左軸の数字はドルの上下動を表しています。
金保有量とドル実効レートの比較
通貨の王さまは米ドルであるということは、皆さまご承知置きの通り。
円や人民元、ユーロ、ルーブルなどの通貨の中で、絶対的に偉い通貨は米ドルです。
従ってそれを基軸通貨と呼びます。
基軸通貨は米ドルであって、お金の王さまであるドルが紙切れになれば円やユーロ、ルーブルなども紙切れになる可能性があるのです。
通貨の王さまである米ドルの価値が下がれば、自分たちの通貨価値も下がり、銀行の取り付け騒ぎのような騒動が起こる場合があります。
それを防ぐために、米ドルの価値が下がれば中央銀行は金の保有量を増やすのです。
上記のグラフはその相関性を見てほしいのです。
ドルが上昇しているときは中央銀行の保有量は少なくなり、反対の場合は減ることが確認出来ます。
実際にその通りの結果になっていると思います。
しかし、中央銀行と言うと皆さんは民間企業のように意思決定が早く、迅速に動いているように思われるかもしれませんが、実際は今も昔も古今東西、お役人の動きというのは鈍牛のように遅いのです。
その理由は、日本であれば4月、欧米では9月に予算が執行されますが、その執行が決まるでは動けないのです。
たとえば2018年の年初は相当なドル安でしたから、中央銀行が買い付けを増やそうとするのは正解ですが、逆に4月から相当なドル高になり、またFRBやムニューシン米財務長官も長い間ドル高政策を続けると明言しています。
ドル高と言うと、今後中央銀行の保有量は減るだろうということは予測できますが、お役人の動きは予算の執行後なので遅れて保有量が減るのです。
ですから、さらに保有量が減るのは来年以降になるでしょう。
国際情勢と金について
今の金の相場観で頭を悩ますのはアメリカの財政赤字で、この赤字が増える理由は年初のトランプ大統領による減税政策です。
過去5年のアメリカ財政赤字
1950年からのアメリカの財政赤字
このようにアメリカに借金が多いと、「基軸通貨であるドルの信用は本当に大丈夫か?」と各国の中央銀行が思っても仕方ありません。
そして万が一、アメリカのドルが信認されなくなった場合、「わが国のお金は大丈夫か?」と各国の中央銀行総裁が思っても不思議ではないのです。
去年、トランプさんが「シリア、イラン、北朝鮮と戦争をやるかもしれない」と言っていたのは、まだ財政赤字が増えてもなんとか持ちこたえられると判断していたからでしょう。
しかし今年は年初から借金が増えているので、ここで戦争をやったらまた財政赤字が増えドルの信用が余計に落ちると考えても不思議でないでしょう。
その象徴的な言葉が米韓合同軍事演習を止めるときの
「あれは、金がかかる」
というコメントです。
これ以上、借金を増やしたくないという本音でしすね。
ここから推測されることは、もうアメリカは対外的な戦争をしたくない、ということです。
トランプさんがどんなにがんばっても支持率は上がらないでしょう。
なぜなら共和党員の支持率は90%なので、国民全員の支持率をこれ以上上げることは無理と判断していると考えられるからです。
以前から言うように、支持率を上げるために対外的な戦争を行わないと思っていいでしょう。
ですから、今後イランやシリアが暴走しても、おそらく平和的な解決が図られることだと思います。
その足元をイランあたりが見透かし、強硬な態度に打って出る可能性もありますが、北朝鮮問題は平和裏に収まることでしょう。
でも、何も解決はしないと思います。
要するにアメリカの赤字を見れば、トランプさんの行動はこれからかなり制限されることになるのです。
だから、今その赤字を減らすために貿易問題で騒いでいるだけなのです。
「金を見れば世界がわかる」
これは決して過剰な表現ではありません。
問題は、需給の大きな割合を占める中央銀行の態度で、このアメリカの赤字を見て金を購入するか、それともドル高を見て売却するか、その辺がよくわからないのです。
だから今は立場をニュートラルにしているのです。
今はドル高で多少金は売られていますが、この赤字で本当に下がるでしょうか?
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