新デザイナー ヴィルジニー・ヴィアールによる新生シャネルの魅力

CHANEL

2019年2月19日、シャネルのアーティスティック・ディレクターを長年勤めたカール・ラガーフェルドが死去しました。「モードの帝王」の訃報にファッション業界だけでなく、世界中に激震が走りました。

カール・ラガーフェルドは、1983年にシャネルのデザイナーに就任。以来、シャネルのDNAを継承しつつ時代に見合ったエッセンスをプラスした革新的な製品を生み出し続け、ブランドの再構築に成功しました。シャネルのハイブランドとしての地位は彼が築きあげたといっても過言ではありません。

カール・ラガーフェルド死去と同日の2月19日、シャネルは後任デザイナーを発表しました。後任として指名されたのが、彼と30年来共に仕事をしてきた右腕であるヴィルジニー・ヴィアールでした。

そして同年2月27日にカール・ラガーフェルド亡き後も経営陣やデザインチームに変更がないことをシャネルは正式に発表しました。

デザイナー交代でシャネルはどう変わったのでしょうか。新しいデザイナー、ヴィルジニー・ヴィアールの人物像やそれによって一新した新生シャネルをご紹介します。


目次

ヴィルジニー・ヴィアール

FashionStock.com / Shutterstock.com

ヴィルジニー・ヴィアールは裏方として30年以上シャネルで活躍してきた人物です。

シャネルのようなブランドが知名度のない内部の人間を後任に指名することは、ファッション業界では非常に珍しいことでしたが、創業者であるガブリエル・シャネルのDNAを継承することを最重要としたメゾンはヴィルジニー・ヴィアール以上の適任な人物はいないとして彼女を指名しました。

それまで知名度が低かっただけに、謎に包まれているヴィルジニー・ヴィアール。彼女についてご紹介します。


ヴィルジニー ヴィアールの経歴

ヴィルジニー・ヴィアールは1962年フランスのリヨン市生まれの現在58歳。

彼女の祖父母がシルクのビジネスを営んでいたこともあり、幼少期より舞台衣装のデザインに興味を持っていました。ファッションスクールに通い舞台衣装を学んだ後、衣装デザイナーのアシスタントとしてファッション業界でのキャリアをスタートさせます。

ヴィルジニー・ヴィアールが20歳の時、彼女の両親が懇意にしていたモナコのキャロライン王女による推薦がきっかけで、シャネルのオートクチュールエンブロイダリー(刺繍)部門にインターンとして入社します。カール・ラガーフェルドが就任して4年目のことでした。

入社してしばらく経つと彼女は同部門の責任者となるほど才覚を発揮します。

1992年にカール・ラガーフェルドがクロエのアーティスティック・ディレクターに就任するのと共に、同ブランドに移籍し、5年間クロエに在籍した後に彼と共に再びシャネルに戻ります。

オートクチュールを担当していたヴィルジニー・ヴィアールでしたが、2000年にはプレタポルテ・アクセサリー部門も担当するスタジオ・ディレクターに就任しました。シャネル製品全てに置いて監修、現場を指揮するようになり、シャネルの主要スタッフとして活躍しました。

表舞台に立つことはほとんどなかったヴィルジニー・ヴィアールですが、カール・ラガーフェルドが体調不良で欠席した2019年春夏オートクチュールコレクションのショーで挨拶をしたことで彼の後任として世に知られる存在となりました。


カールラガーフェルドとの信頼関係

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カール・ラガーフェルドヴィルジニー・ヴィアールのことを「私の右腕であり、左腕でもある」と話すほど信頼を寄せていました。92年から97年の5年間、カール・ラガーフェルドと共にクロエに移籍し、共にシャネルに戻ったことからも2人の一蓮拓生の関係を伺い知ることが出来ます。

2人は頻繁に連絡を取り合う仲でした。カール・ラガーフェルドが仕上げたデザインのスケッチをもとに、ヴィルジニー・ヴィアールが生地を選びます。完成までのプロセスの調整など全て彼女が行い、作品を作り上げます。ヴィルジニー・ヴィアールは表舞台には立たず、チームを牽引して作品を形にする裏方の仕事を担う役割を果たしてきました。

シャネルのファッション部門のCEOであるブルーノ・パブロフスキーは2月19日にヴィルジニー・ヴィアールのことを後任に任命した際に彼女のことを「カール・ラガーフェルドと創業者のガブリエル・シャネルのDNAを受け継ぐ者」とコメントしています。


ヴィルジニー・ヴィアールの新生シャネル

Sushiman / Shutterstock.com

ガブリエル・シャネルカール・ラガーフェルドのDNAを継承したヴィルジニー・ヴィアールによって生まれ変わった新生シャネル。

ヴィルジニー・ヴィアールが発表したコレクションをご紹介します。


プレタポルテ

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年に4回発表されるプレタポルテのコレクションは、デザイナーの表現したいエッセンスが詰まっています。

プレタポルテコレクションを見ればヴィルジニー・ヴィアールの新生シャネルを感じ取ることが可能です。


2020年クルーズコレクション

ヴィルジニー・ヴィアールが単独で手掛けた初のプレタポルテコレクションはパリのグラン・パレが会場となり、ガブリエル・シャネルアーサー・カペルの恋がはじまったとされるトレインステーションを表現したセットが組まれました。

ショーのテーマは「旅」。新生シャネルの新たな旅立ちに相応しいテーマで、ガブリエル・シャネルが大切にしていた動き易さを重視したシルエットのパンツルックや、シャネルスタイルの代表であるツイードジャケットも従来のシルエットとは違った様々な新しいスタイルで登場。シャネルの定番カラーであるモノトーンを基調として、ピンクやレッド、パープルやブルーといった鮮やかなカラーのアイテムが次々に発表され、フレッシュで若々しいヴィルジニー・ヴィアールらしい新生シャネルを印象付けたコレクションでした。


2020年サマーコレクション

パリのグラン・パレで行われた2020年サマーコレクションは、会場にパリの家並が繋がる屋根のランウェイを設置。その上をモデルが歩きました。

テーマは1950年台の映画「ヌーヴェル・ヴォーグ」。

シャネルのアイコンであるツイードジャケットを若々しく表現した新しいスタイルを次々と発表しました。ミニ丈のオールインワンやデニムやショートパンツのルックも登場し、ラフでカジュアルなスタイルも多く、希望に満ち溢れた明るさが表現された輝かしいコレクションでした。


2020年ウィンターコレクション

ヴィルジニー・ヴィアールがアーティスティック・ディレクターに就任して2度目のウィンターコレクションのテーマは「自由・エネルギー・ピュア・シンプル」。

毎度、大規模な会場セットが印象的だったシャネルですが、会場の顧客席を段にして重ねて島に見立て、その間をモデルが歩くという未だかつてないシンプルな演出にも注目が集まりました。これはサスティナブルの意識がファッション業界に浸透してきたことの現れです。

ガブリエル・シャネルが愛した乗馬から着想を得たメンズライクな乗馬ルックや、モノトーンを基調としたカラーに淡いペールカラーを差し込んだピュアで若々しいスタイルが印象的なコレクションでした。


2021年春夏コレクション

世界的なパンデミックを受け、クルーズ・コレクションをオンラインで発表したシャネルでしたが、サマーコレクションは2020年10月6日にパリのグラン・パレにて開催。ロサンゼルスのHOLLY WOODサインに見立ててCHANELサインの巨大なモニュメントを会場に設置しました。

ショーのテーマは「メゾンの歴代のミューズ達に捧げるオマージュ」。ガブリエル・シャネルカール・ラガーフェルドは数多くの女優達の衣装を手掛けてきました。本コレクションはシャネルの歴代のミューズとデザイナーを想い、現代の女性達の為に若々しくフレッシュなスタイルが数多く発表されました。

「ヴィンテージ風に再現したわけではなく、活気があり、カラフルで喜び溢れたコレクション」だとヴィルジニー・ヴィアールはコメントしています。


CHANEL 19(ディズヌフ)

カール・ラガーフェルドヴィルジニー・ヴィアールが手がけた最後の2019-2020年秋冬コレクションで発表された最新モデルのバッグ「CHANEL 19(ディズヌフ)」。

新生シャネルを代表する新しいアイコンバッグです。

定番のクラシック・チェーンバッグとの違いは、その柔らかいフォルムとチェーンの仕様、そして大きなCCマークが印象的です。

ヴィンテージ風なデザインですが、どこか新しくて若々しいまさにヴィルジニー・ヴィアール率いる新生シャネルに相応しい新しいアイコンバッグです。「CHANEL 19(ディズヌフ)」はバッグだけでなく革小物も多数展開しており、今後次々に新しいモデルが発表される予定です。


ファレル・ウィリアムスとのコラボレーション

ヴィルジニー・ヴィアールは2019年3月にファレル・ウィリアムスと協業してカプセルコレクションを発表しました。

ファレル・ウィリアムスはシャネルのショーに登場したり、「ガブリエル・ドゥ・シャネル」の広告フィルムに登場したり、シャネルとは縁の深いミューズです。

生前のカール・ラガーフェルドと親交が厚く、「シャネル ファレル」を提案してアイデアを出したのはカール・ラガーフェルドでした。彼の意志を次いで歴史に残るコラボレーションをヴィルジニー・ヴィアールが実現しました。

すでにシャネルとファレルは2017年にコラボレーションしたスニーカーを発表しており、世界限定500足に対して12万人の応募があり大成功を収めていたことから、メゾンにとってもシャネルファンにとっても待望のコラボレーションでした。

2019年に発売されたカプセルコレクションのラインナップはストリートからインスピレーションされていて、ウェアを初め、カスタムスニーカー、バッグ、サングラス、アクセサリー類など。いずれもカジュアルなデザインで、ユニセックスで使えるアイテムばかりでした。

いずれも爆発的な人気をほこり、数に限りがあった為現在ではプレミア価格がついています。


サステナビリティへの取り組み

ファッション業界は石油産業に次いで、地球環境汚染に影響を与えていると言われています。世界全体の二酸化炭素排出量のうち、8%以上がファッション業界からの排出という事実に驚きを隠せません。

シャネルは地球の環境問題への取り組みとして、「シャネル・ミッション1.5」を2020年3月10に発足させました。1.5というのは、「世界の平均気温の上昇を1.5度未満にする努力をする」といったパリ協定の目標値のことです。

シャネル・ミッション1.5」で掲げているのは以下の4項目です。

  1. 30年までに二酸化炭素の排出量を50%減らす
  2. 25年までに100%再生エネルギーに切り替える
  3. 二酸化炭素排出量の相殺
  4. 気候変動に対する取組への投資

ヴィルジニー・ヴィアールは、カール・ラガーフェルドのショーに見られた豪華絢爛なセットを取りやめ、サスティナブルの観点からショーのセットにも再生資源を使用するなどして環境問題に取り組む姿勢を見せました。

彼女がシャネルのアーティスティック・ディレクターに就任した後に発足した「シャネル・ミッション1.5」ですが、ブランドを牽引する彼女が今後どのようにして地球環境問題に取り組んでいくかファッション業界の注目の的です。


まとめ

ヴィルジニー・ヴィアールがシャネルのアーティスティック・ディレクターに就任したことで、シャネルはブランドのDNAを継承することに成功したと共に、若々しくてフレッシュ、そしてエネルギッシュさが従来のブランドの持つイメージにプラスされました。

カール・ラガーフェルドがコレクションのショーで毎度驚かせたような華美な演出を辞め、サスティナブルの観点から、再生可能なシンプルで無駄のない演出をヴィルジニー・ヴィアールは実現しています。裏方での仕事を好み、表舞台に出ることがなかった彼女らしい奥ゆかしさと、華美な演出がなくても輝けるということを証明しています。

デザイナー交代で、ブランドイメージを一新して若返りを図るブランドが多い中、ブランド創設者であるガブリエル・シャネルのスピリットを現代に継承し、らしさを絶対に忘れないシャネルは他のブランドと違い一線を画していて、さすがです。

ガブリエル・シャネルカール・ラガーフェルドのDNAを継承して、そこにヴィルジニー・ヴィアールらしい若々しさをプラスする新生シャネルから今後も目が離せません。

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