超入手困難な「プティ・アッシュ」の魅力とエルメスのサステナブルな取り組みについて
「エルメス」の洗練された製品の中でも、ひときわ遊び心があって可愛らしい小物「プティ・アッシュ」をご存知でしょうか。
「プティ・アッシュ」とは、フランス語で小さいを意味する「Petit」に「エルメス」の頭文字の「H」を組み合わせて名付けられました。名前が意味するのは「小さいエルメス」です。その名の通り、「プティ・アッシュ」は中には1メートルほどの大きな製品もありますが、バッグチャームやアクセサリーなどの小さい小物が主です。
「プティ・アッシュ」は「エルメス」の製品を製造する工程でどうしても余ってしまった端材や傷や汚れがあり製品化されなかった素材を用いて作られたいわばリサイクル品です。その為、お値段も比較的お求めやすくなっています。ですが、そうはいっても「エルメス」の上質な素材を使用していることに変わりはなく、洗練されたデザインが魅力です。ごく僅かな数しか生産されず入手が困難なことが人気に拍車をかけており、熱狂的なエルメスファンを魅了しています。
そんな「プティ・アッシュ」はどういう背景があって作られたのか、特徴と魅力を踏まえてご紹介したいと思います。
目次
ファッション業界がもたらす環境の影響について
「プティ・アッシュ」をご紹介する前に、ファッション業界がもたらす地球環境への影響についてお話ししたいと思います。
ファッション業界は、石油産業に次いで環境汚染への影響がある産業です。CO2の排出量が全世界の10%を占めており、大量の水資源を消費する「世界でワースト2位の環境汚染産業」と言われています。
ファッション業界が環境にもたらす影響はとても深刻です。生産過程における90,000キロトンの二酸化炭素排出量と大量の水の消費、45,000トンにものぼる端材の排出、さらには化学物質による水質汚染も問題視されています。
こうした地球の環境汚染に対する対策やサステナブル(持続可能な=リサイクル)の取り組みの推進が、企業や個人に求められている今、ファッション業界に多大な影響をもたらすラグジュアリーブランドにとっても避けて通れない課題となっています。
そんな中、2015年9月の国連サミットで「持続可能なファッションのための国連アライアンス」が採択されました。どういった内容かというと2030年までの天然資源の持続可能な管理と効率的な利用が謳われていて、廃棄物を削減し、化学物質などの放出を低減することを目標とした12の具体的なターゲットを達成することを求めています。
ファッション業界は、環境汚染ワースト2位のマイナスイメージから脱却するため、消費者のニーズに応えるべく様々なサステナブルな取り組みを行っています。「エルメス」はその影響力の強さからラグジュアリーブランドを牽引する役割を担っていて、環境保護、再生資源の活用、廃棄物の削減に努めています。具体的には、絶滅危惧種を守るための野生動物違法取引への対策の金銭的な支援であったり、再生可能エネルギーから作られた電力の導入、余剰廃棄の削減、馬具工房から始まったブランドの伝統と職人技を財産として守り現代に継承することなどの取り組みに尽力しています。
今回は「エルメス」のこういった取り組みの中でも、貴重な天然資源を余すところなく使い、製品を生産する過程で生じて余った端材を再利用して別の製品を生み出し、余剰廃棄の削減に努める「プティ・アッシュプロジェクト」に焦点を当てたいと思います。
プティ・アッシュプロジェクトとは
持続可能な地球環境を守るリサイクルプロジェクトは近年、サステナブルの取り組み強化の一環として2021年現在、取り入れるラグジュアリーブランドが増えてきています。
サステナブルの取り組みとして、「エルメス」は2010年にいち早く廃棄物を減らして新たに製品を開発する「プティ・アッシュプロジェクト」を立ち上げました。
「プティ・アッシュ」を生み出したのは、エルメス家出身のパスカル・ミュールです。彼女は、エルメス家に育ち、幼少の頃から様々な素材と職人の手仕事に触れて育ちました。そして、ちょっとした傷や汚れがあって破棄されるスカーフのシルク地や、生産過程で生じる余った革などの製品化されない端材に目を向け、廃棄される素材を再び輝かせたいと幼い頃からずっと考えていました。
パスカル・ミュールは2010年に「プティ・アッシュ」のアーティスティック・ディレクターに就任します。そして、幼い頃から夢見ていた、再創造をして再び素材を輝かせたいという夢を叶え、パリの郊外に「再創造の研究室」と呼ばれる「プティ・アッシュ」のアトリエを構えました。
「エルメス」のバッグや革小物の製造工程において、技術と伝統的なノウハウを駆使してもレザーを余すところなく使い切ることは非常に難しくどうしても余った端材がでてしまいます。こういった本来廃棄されるはずの端材を用いて、「エルメス」の職人技とデザイナーの斬新なアイデアによってクリエイティブな製品を生み出し端材に息吹きを吹き込む取り組みのことを「プティ・アッシュプロジェクト」と言います。
具体的にどんな製品がアトリエで生み出されるのかと言うと、バッグチャームであったり、カードケースであったり、ドアストッパーの持ち手であったり。ぬいぐるみやシルクの巾着などが生み出されることもありバリエーションは多種多様です。ちょっとした革小物に姿を変えて息吹が吹き込まれた「プティ・アッシュ」はふたつとして同じものが存在しない点も魅力です。
「プティ・アッシュ」は、レザーの円状のもの、帯状のものなどの細かい端材を使って作られています。職人やデザイナー、アーティストが協力して何の縛りもなく、自由な発想を用いて実験的に「プティ・アッシュ」は生み出されます。そして、目立たないような小さな汚れがあるという理由で製品化されなかったシルクの余り布と組み合わせて新たな商品として息が吹き込まれます。
「エルメス」はこの取り組みを、2012年に「プティ・アッシュ」のショートフィルムを公開して大々的に世に知らしめました。
「エルメス」のこういったサステナブルへの取り組みは、ラグジュアリーブランドだけにとどまらず、ファッション業界全体に多大な影響を与えています。
プティアッシュの種類
「プティ・アッシュ」は、職人とデザイナーのアイデアにより再び息吹きを吹き込まれた遊び心溢れる作品です。どういった種類があるのかご紹介します。
バッグチャーム
こちらは星をモチーフにしたバッグチャームです。本体に結びつけている紐は、シルクを使用しています。このシルクもちょっとした傷や汚れがあったことで製品化されなかった端材が使われています。
本体はシンプルな単色の革ですが、「プティ・アッシュ」にはカラフルなスカーフが使用されることが多いので見た目も華やかです。
「プティ・アッシュ」のバッグチャームは、他にも動物や小物や季節ものをモチーフにした可愛らしい遊び心のあるデザインなど様々です。
シルクのポーチ
スカーフの端材であるシルクを使用して作られた巾着袋です。
「プティ・アッシュ」といえばまず可愛らしいチャームを思い浮かべるので、巾着袋が作られていることを意外に思われる方も多いかもしれません。
日本で2011年に行われた「プティ・アッシュシリーズ」では京都をイメージして、シルク素材を用いた古風な「プティ・アッシュ」が多数展示されました。
レザーのネックレス
こちらの「プティ・アッシュ」はトップに希少なアリゲーターを使用した存在感抜群のネックレスです。革紐が取り付けられていて、本体とのコントラストが鮮やかです。
高級素材のアリゲーターも、「プティ・アッシュ」シリーズなら手が届きやすいです。
シルクのブレスレット
「カレ」の製作過程において、ほんの小さな傷や汚れがあって製品化出来なかったシルク地を利用した華やかなブレスレットです。
シルク地は、アクセサリーだけでなく巾着になったり、バッグチャームのストラップになったり、ぬいぐるみになったり。「プティ・アッシュ」の創造に欠かせない素材です。
入手困難なプティ・アッシュ
「プティ・アッシュ」は2010年にプロジェクトが立ち上がって以来、パリ・東京・ニューヨークで展示会が開催されています。その際に、「プティ・アッシュ」を購入することが出来ましたが、いずれの展示会会場でも即完売でした。いつかまた日本で展示会が開催されたとしても、購入することは難しいと思われます。
生産される数が極めて限定されている理由は、「プティ・アッシュ」はそもそも「エルメス」の商品入荷スケジュールに載っておらず、職人とアーティストの気まぐれで作られるからです。それもそのはず、「プティ・アッシュ」はバッグや財布の製作工程において、どうしても余ってしまった革を用いるので、計画的に作り出すことができないのです。
入荷の予定が不定期で定まらず、数も極めて限定的であることから、日本の直営店に入荷することもごく稀です。その為、入荷を待ち望んでいるエルメスファンが多く、希少価値が高まり争奪戦が繰り広げられるのです。
「エルメス」の公式サイトにも「プティ・アッシュは年に数回、世界各地のエルメスブティックへと旅に出かける」と記載されており、ごく僅かな限定品であることがわかります。
プティ・アッシュを購入する方法
そんな希少な「プティ・アッシュ」を購入する方法は3つあります。
1つ目はパリに渡航して「プティ・アッシュ」の直営店で購入すること。実店舗で購入することが出来るのはフランスのパリのセーブル通りにある「プティ・アッシュ」を専門に展示している「エルメス」のブティックのみです。
2つ目はエルメスオンラインで購入することです。しかし、生産される数が極めて限定されている為、オンラインに在庫が入荷することは極稀です。オンラインショップをまめにチェックしていたとしても、「プティ・アッシュ」が入荷するやいなや毎回あっという間に売り切れてしまう為、購入することが困難となっています。しかも、「プティ・アッシュ」をエルメスオンラインで購入すると色の指定をすることが出来ず、到着するまでどの色が届くかわからない点もデメリットです。
3つ目は、リセールショップやエルメス専門店、または個人のオークションやセレクトショップで購入することです。「プティ・アッシュ」は大変希少で入手困難なアイテムなので、定価よりも高値で販売されていますが、好きなデザインと色を選ぶことが出来るので高値で転売されている「プティ・アッシュ」を狙うのも一つの手です。
まとめ
「エルメス」はラグジュアリーブランドの中でも、絶大な人気と影響力を誇るブランドです。「プティ・アッシュプロジェクト」のようなサステナブルの取り組みをいち早くスタートさせたことは、ファッション業界全体の意識改革に大きく貢献しています。
「プティ・アッシュ」は、本来廃棄されてしまうはずの素材を使って作られた製品ですが、素材は間違いなく「エルメス」の最上級のものを使用しています。通常販売されている製品とは違うけれども、「エルメス」の職人とデザイナーのクリエイティブなアイデアと素材への敬意を感じられる特別な製品であるが故に、エルメスファンには堪らないレナなアイテムなのです。
「プティ・アッシュ」に運よく出会える機会があれば、是非手にとってみてはいかがでしょうか。