エルメスの最高級の牛革「ボックスカーフ」の特徴と人気再燃について
「エルメス」は1837年にフランスのパリを拠点にした高級馬具の製造業からスタートしました。高級馬具の製作技術と最高品質の革を用いて生み出される「エルメス」の製品は、今や最高峰の革製品とされエルメスファンだけでなく世界中の人々を虜にしています。
革小物、アパレル、宝飾などのファッションアイテムにとどまらず、家具や食器などのライフスタイルに直結するアイテムをトータルで扱う「エルメス」ですが、「エルメス」製品の主力となるのは何と言っても牛革の革製品です。「エルメス」の牛革と言えば、「バーキン」や「ケリー」に代表される「トゴ」や「ヴォー・エプソン」、「トリヨン・クレマンス」などが思い浮かびます。中でも、最も高級と言われている「ボックスカーフ」は、数ある「エルメス」製品の中でも際立って美しく、洗練されています。
「ボックスカーフ」の特徴と魅力、そして人気が再燃している理由についてご紹介します。
目次
ボックスカーフとは
「エルメス」の革製品の多くは、牛革を使用しています。同じ牛革でも、牛の成長や性別などで表面の凹凸や肌触りや質感などが全く違う為、「エルメス」ではそれぞれに名前をつけています。その種類はなんと20種類以上もあるから驚きです。
今回ご紹介する「ボックスカーフ」は「エルメス」の牛革製品の代表的な素材で、最も高級でクラス感のある素材です。光沢があり、柔らかくて滑らかな質感が特徴の「ボックスカーフ」は、カジュアルな装いよりもフォーマルな装いにマッチする素材で、他の「エルメス」の革製品の中でも群を抜いて存在感があります。
「エルメス」の革は、世界最高品質の老舗タンナーとして名高いフランスのタナリー・デュ・プイ社とデュ・プイ社から1984年に独立したアノネイ社で製造されています。生後半年以内の孔牛の革から透明感のあるきめ細かい革を仕上げるには、世界最高のタンナーの技術を持ってしても、10枚中1枚仕上がるかどうかだそうです。
それほどまでに希少な「ボックスカーフ」とはどんな牛革なのか、特徴や魅力、製造工程についてご紹介します。
ボックスカーフの見た目の特徴
牛革の中でも最高級である「ボックスカーフ」は、柔らかくキメの細かい上質な質感が特徴です。それもそのはず、「ボックスカーフ」は生まれて3ヶ月から6ヶ月の雄の仔牛の革だからです。
表面はガラス加工が施されていて光沢と艶感があり、水シボと呼ばれる、一方向へ流れるような浅くて繊細で細かいシワがあります。型押しの加工を施していない為、表面の凹凸はほとんど無いに等しいです。生後6ヶ月以内の仔牛の革なので、キメが非常に細かく地肌が見えるかと思うような透明感があります。
革の加工方法「タンニン鞣し」と「クロム鞣し」について
動物の”皮”を”革”に加工する技術を「鞣し」と言います。動物の毛や汚れを落として、加工を加え、その文字の通り皮を柔らかくすることで皮から革に生まれ変わります。
革の鞣し加工の方法は、大きく分けて2種類あります。一つは、「植物タンニン鞣し」です。
「植物タンニン鞣し」の起源は古代エジプトまで遡ります。古くからある伝統的な加工方法の一つです。動物の原皮を植物性のタンニンに漬け込みタンパク質を分解して削ぎ落とすことで、皮から革へと生まれ変わります。膨大な手間と時間をかけて仕上げられた「タンニン鞣し」の革は、乾いた質感で硬く、水を吸収しやすい性質を持ちます。「タンニン鞣し」の革は、時間の経過と共に革の風合いや色目が変化していき徐々に「味」がでやすいのが特徴です。
それに対し、「クロム鞣し」は100年ほど前にドイツで開発された後発の技術です。現在世の中に出回っている革製品の約8割は「クロム鞣し」の革で、素材としても「タンニン鞣し」よりも優れている為、エルメスの革製品も「クロム鞣し」のものがほとんどです。
「クロム鞣し」は「塩基性硫酸クロム」と呼ばれる化学薬品を使用し、ドラムに皮とクロム鞣し剤を投入して浸透させて皮から革に加工します。加工に要する時間は約1日で、「タンニン鞣し」と比べると時間も手間もかけず、大量に革を生産することが出来ます。さらに「クロム鞣し」で加工された革は、軽くてしなやかさで、伸縮性があります。長きにわたって風合いが保たれるので、経年変化が少なく新品の頃のままの美しさが持続する点が多くの消費者に好まれています。このようなメリットから「エルメス」をはじめ高級ブランドで扱っている革製品も「クロム鞣し」のものが大半を占めています。
ボックスカーフの加工方法について
「ボックスカーフ」の加工方法は「クロム鞣し」ですが、製造工程が他のレザーと異なります。
クロム鞣し液に浸す時間を短くすることで、革本来の表情を残しつつ艶やかな美しさと耐久性を兼ねそろえた最高峰の素材「ボックスカーフ」が生み出されます。
「エルメス」の革でお馴染みの「トゴ」や「クレマンス」などの牛革は、鞣し液に一定の時間浸して動物の原皮から不要となるタンパク質を取り除き、革に加工した後に型押しを施して仕上げます。一方で、「ボックスカーフ」はクロム鞣し液に浸す時間を短縮することで革本来の質感と硬さを残した状態で革に加工され、仕上げに「シュリンク加工(革の収縮)」を加えます。そうすると、繊細な細かい水シボと呼ばれるシワが表面に出来上がります。
そして表面にはガラス板を貼り付けて合成樹脂で仕上げる「ガラス加工」が施されます。「ガラス加工」が施されることで、樹脂層が革の内部に水分が浸透することを防ぎ、水にも強くなり耐久性が増します。そして、見た目も均一で光沢感のある美しい仕上がりとなるのです。
革本来の美しさを存分に味わえる「ボックスカーフ」は牛革の中でも最高級素材として位置付けられていて、「エルメス」の革製品の中でもエキゾチックレザーを除いて最高峰の素材とされています。
ボックスカーフの傷のつきやすさ
「ボックスカーフ」は「トゴ」や「ヴォー・エプソン」などの凹凸がありシボが深い他の牛革製品に比べると、凹凸がなくスムースな革なので傷や擦れがつきやすく、また目立ちやすい点が少々難点です。
また、フラップ(蓋)の部分など開閉する際に動かす箇所は、その都度力が加わる為、使用している内に細かいシワがどうしても出来てしまいます。
「ボックスカーフ」は他の牛革に比べて、キメ細かくスムースな質感と光沢がある洗練された素材ではありますが、傷がつきやすく、目立ちやすい点がデメリットとしてあげられます。しかし、リペアをして磨きをかけると簡単に美しさを蘇らせることが出来ることを忘れてはいけません。
ボックスカーフが劣化しにくい理由
「ボックスカーフ」は、革そのものの強度が高いので、小傷がつくものの大きな傷は付きにくい加工が施されています。革を収縮させる「シュリンク加工」によって、革の表面の密度が高まり強度が強くなります。万が一、小傷がついてしまっても革表面の細かいシボによって多少は目立ちにくいという特徴もあります。さらに「ガラス加工」を施しているため、万が一濡れてしまっても革の繊維内への水の侵入を防ぎます。
「タンニン鞣し」で仕上げられた革よりも、「クロム鞣し」で仕上げた革の方が経年変化しにくく、美しい状態を保ち耐久性にも優れていると言われています。中でも「ボックスカーフ」は傷がつきにくく、万が一傷がついてもリペアが容易ですし、光沢と艶感が持続するので経年劣化しにくいのです。
ボックスカーフの値段
牛革の中で最高級と位置付けられている「ボックスカーフ」ですが、そのお値段は「トゴ」の1.3倍です。
- ボックスカーフ・バーキン30㎝:参考上代1,760,000円(税込)
- トゴ・バーキン30㎝:参考上代1,452,000円(税込)
- ボックスカーフ・ケリー28㎝:参考上代1,617,000円(税込)
- トゴ・ケリー28㎝:参考上代1,320,000円(税込)
- ボックスカーフ・ケリー35㎝:参考上代1,914,000円(税込)
- トゴ・ケリー35㎝:参考上代1,518,000円(税込)
ボックスカーフのエルメスバッグ
「ボックスカーフ」を使用した「エルメス」の人気バッグをご紹介します。
ケリー
「エルメス」の「ボックスカーフ」を使用した最も人気の製品はやはり、高級感と気品のある「ケリー」です。「ボックスカーフ」は、フォーマルな印象の強い素材なので、品格のある「ケリー」と相性が良いです。
「ボックスカーフ」の「ケリー」は、フォーマルな場面に最適なバッグとして支持されています。
ボリード
「ボリード」は使い勝手の良い旅行鞄として誕生した比較的カジュアルなデザインのバッグですが、「ボックスカーフ」のボリードなら、フォーマルで高級感が増します。
「ボックスカーフ」の「ボリード」なら、和装に合わせて持つのもおすすめです。
バーキン
ボックスカーフ・バーキン30㎝:参考上代1,760,000円(税込)
「バーキン」は「エルメス」を代表する最も人気のあるバッグです。「ボックスカーフ」の「バーキン」も圧倒的な高級感と存在感があり、希少なアイテムとして人気が高いです。
ボックスカーフ人気再燃の理由
最近では、「ボックスカーフ」を使用した「エルメス」のバッグの人気が再燃しています。
その理由は、以前はスタンダードな素材であった「ボックスカーフ」が、近年は原皮が不足しており極端に生産数が少なくなった為、希少価値が高まったことにあります。「ボックスカーフ」の「エルメス」アイテムに出会えることが滅多とないことが、人気に拍車をかけています。
もう一つの理由は、若い女性の間で、SNSを中心にヴィンテージアイテムが注目されていることを背景に、経年劣化せず新品当初に近い美しい光沢感のある「ボックスカーフ」の革に人気が集まっています。
「ボックスカーフ」はかっちりとしたフォルムを長年維持することができ、その上光沢のある艶やかな美しさが時を経ても保たれるということが最近になって認知されるようになりました。いつまでも新品の頃のような美しさを保つ「ボックスカーフ」は一つのバッグを長く愛用する上で理にかなった素材なのです。
サスティナビリティの意識の高まりも理由の一つです。「エルメス」のバッグを一つ購入するなら長年使い倒しても経年劣化せず愛用できるものが良く、世代を超えて受け継いでいきたいという考えが消費者に浸透しつつあります。
「ボックスカーフ」なら、多少の小傷がついても表面が滑らかなのでリペアをすると美しく蘇らせることが可能ですし、型崩れすることもなく艶やかな光沢感が持続します。まさに世代を超えて受け継ぐことのできる唯一の革製品なのです。
ボックスカーフのお手入れの仕方とリペアについて
傷や汚れに強く、経年劣化しない「ボックスカーフ」は非常にお手入れしやすい革素材です。
使用後は、表面を繊維の細かい布で汚れを拭き取り、通気性の良い場所で保管します。
万が一、細かい傷や擦れがついてしまい気になる場合は、「エルメス」直営店にてリペアを依頼することが出来ます。一度でも直営店以外でリペアをしてしまうと「エルメス」でリペアをしてもらえなくなるので注意が必要です。
「エルメス」の直営店でリペアに出す場合は、費用はリペア必要箇所にもよりますが2万円〜3万円ぐらいかかり、日数は2,3ヶ月を要します。
傷やスレは「エルメス」直営店でリペアしてもらうことで、目立たなくなります。特に「ボックスカーフ」は表面の凹凸が無いため、シボが深い「トゴ」や「トリヨン・クレマンス」などに比べるととても綺麗に仕上がります。メンテナンスしやすい点も「ボックスカーフ」の魅力の一つですね。
まとめ
「ボックスカーフ」の製造過程から特徴、お手入れ方法をご紹介しました。その魅力をご理解いただけた事と思います。
「ボックスカーフ」は、以前はスタンダードなレザーでありましたが近年は原皮が不足していることもあり、大変希少なレザーとなりつつあります。
経年劣化せず、いついつまでもかっちりとしたフォルムと美しい光沢を保つ「ボックスカーフ」の「エルメス」アイテムは間違いなく、長年愛用することが出来る大切な逸品になることは間違いありません。世代を超えて受け継ぐことも出来ますよね。
「ボックスカーフ」の「エルメス」アイテムに出会う機会があれば是非購入を検討してみては如何でしょうか。