金が安くなっている⁈
「インフレに強い金」という格言を、金投資をした方であれば一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
要は物価の上昇がひどくなった場合には金を保有していたほうが良い、という意味です。今回は、インフレと金に関してお話しをしていきます。
1300ドル台だったドル建ての金が、現在1200ドル台前半、場合によっては1200ドルを割り込むような勢いで下がってきています。
今まで再三にわたって申し上げてきたように、この主な要因は、ドルが強くなると金が下がるという相関関係です。
ドルが上昇するということは、世界の基軸通貨であるドルに対して信認があるということを意味します。
一方でドルが下がるということは、ドルに対して信認がないと言うことができます。
では、ドルに対する信認とはどういうことなのかと言えば、ドルを発行するアメリカ政府がその信用を保証してくれる、という意味です。
金を投資の際の営業マンの説明文句に、「お金はしょせん紙切れですから、政府が倒産したら価値はなくなりますよ」というものがあります。
では、現在のアメリカ政府に信用はあるのか、ということを何度もお話ししていますが、以下のグラフで確認をしてみてください。
上記のグラフのように、アメリカの借金は過去最高を記録しているのです。
このペースで増えていけば、アメリカ政府はいつ倒産してもおかしくないと考えても、不思議はありません。
2007年から2011年のドル安円高の記憶
ここで皆さんは、ある疑問を思い浮かべませんか?
「政府の借金が膨れ上がっているのに、アメリカドルはなぜこんなにも高いのか?」という疑問です。
過去の歴史を見ても、アメリカドルが安いときは、必ずアメリカ政府の債務が膨らんでいます。
2007年のリーマンショックなどは良い例です。
世界的な大恐慌が起き、政府は景気を支えるために大きな財政支出を発動し、当然の結果、財政は悪化してドルは安くなりました。
2007年から2011年の東日本大震災の後まで、日本は70円台の円高に苦しんだのをご記憶の方も多いでしょう。
これは日本の財政が悪かったこともありますが、主な原因はアメリカの過剰な支出によって債務が膨らんだからドル安円高相場になったのです。
そして、アメリカ政府への信認がなくなったので金が高騰して、ドル建てで金の価格が新高値を更新したのです。
2018年の赤字は2017年よりはるかに大きい
今年の場合も、去年の年末にトランプ大統領が減税政策を決定し、今年の年初から減税を施行しました。
財政収入が伸び悩んでいる上に、減税をしたのですから当然、財政赤字は膨らみます。
このグラフからは、2017年の赤字よりも2018年の赤字のほうがはるかに大きいことが見て取れます。
では、なぜこれだけ財政赤字が増えたのにドルは安くならず、逆に高くなったのか、ということです。
海外投資の鉄則を確認
海外投資をする外国人にとって、その国の通貨が高くなっていかないときにはその国には投資を控える、という鉄則があります。
例えば、日本人がアメリカの株を買って30%儲けたとしましょう。
しかし、その国の通貨が30%下落したら、その投資結果はどうなるでしょうか?
収支はプラスマイナスゼロと考える方が大半だと思いますが、答えは違います。
マイナスになります。
なぜならその株のキャピタルゲインに対して課税をされますでの、トータルの収支がマイナスでもアメリカ国内で課税が行われるからです。
つまり通貨安に加えて課税をされるから、マイナスの可能性が大きくなります。
この例からもおわかりのように、外国に投資をする場合、対象国の通貨が下がり続けていると損をする可能性が高くなるので、その国の通貨が上昇することを前提に投資するのが鉄則です。
ところがアメリカの場合はどうでしょう?
アメリカが陥っている苦境
アメリカは年初に減税を行ったのですから、歳入不足が深刻化して、アメリカ国債の発行量が多くなるのは必然です。
その場合、財政赤字拡大はドル安になるので、外国人はアメリカ国債を買いたがりません。
つまり年初からドル安を想定していたのですから、ドル安円高相場になっても全く不思議はありません。
ところが1月末から2月上旬にかけてトランプ大統領はドル安からドル高への転換を言い始め、その結果、4月から大幅なドル高円安相場になりました。
でも、これはおかしいですよね。
ドルの債券の発行残高が増えるということは、ドルの借金が増加するということです。
この借金を背景に考えれば、通常ならば大幅なドル安になるはずなのに、実際はドル高になっている…。
これは、アメリカの景気が現在絶好調であり、政府の税収も増えるからドルが高くなっていると考えることもできます。
では、アメリカは好景気なのか?
現状アメリカの景気が良いので、ドル高の正当性は100%ないとは言い切れません。
なぜなら、アメリカの景気が良ければ税収が増え、少なくとも減収はしていないのであれば倒産のリスクは減るからです。
これが減収であれば、支出がそれ以上減らなければ倒産のリスクは限りなく高まります。
つまり景気が良いということは、ドル高の源泉であり、そのドル高を見てドル建て金価格が下落するという現状を見れば、この相関は正しいと言うことができるでしょう。
しかし実際は、アメリカの財政赤字は天文学的な数字となっており、その結果として導き出されることは、本来ならばドル安、そして金の高騰になります。
ここでそのどちらが正しいのかを判断する鍵となるのが、どんなタイプのインフレであるのかということです。
判断の鍵はインフレの性質
インフレには2種類あり、冒頭のタイトル通りになります。
- 良いインフレ
- 悪いインフレ
1の良いインフレとは、需給によって物資が不足して、その結果として物価上昇するかたちです。
生産が需要に追い付かなくなった結果、品不足をもたらし、価格が上昇することを良い意味でのインフレと呼びます。
2の悪いインフレとして、アメリカ政府の財政が何らかの事情で悪化し、その利払いや債務の返済が滞りなくできなくなる可能性は現状では否定できません。
つまりドルという紙切れを持っていても、いざというときに使えなくなる可能性があるから、車や不動産などの資産価値のあるもので持つことになり、悪いインフレの場合、究極の資産価値がある金を人々が持つようになります。
なぜなら、借金を返すことができない人が発行しているお金を持っていてもその価値は下がる一方だからです。
現状の世界の基軸通貨であるアメリカドルは1のケースも考えられ、2のケースも戦争や紛争、そして自然災害によっても起こり得るということになります。
アメリカのインフレの分析
現状の金の評論では、アメリカの物価が上昇するから、金はインフレに強いから、金の価格が上昇するという分析が多いようです。
上記の文章を読むと、この物価上昇は良いインフレであって、需給がタイトになっているから物価上昇を引き起こしていると考えることができます。
であれば、最終的には好景気によってアメリカ政府の税収が増え、赤字を圧縮する結果になります。
その場合はドル高なので、金の価格は下がることになります。
しかし一方で、世界でイスラムのISILや紛争などが起こったり、西日本豪雨のような大規模な自然災害などが起こったりすれば、その規模にも拠りますが、最悪の場合また莫大な借金を負うことになります。
そして、その利払いや返済が可能なのかを図りかねます。
金価格はいつ高騰してもおかしくない
金相場が今は素直に現状を反映して需給不足からのドル高で、金価格は下がっています。
しかし、考えてみてください。
特に自然災害などの場合は、アメリカ政府がとんでもない借金を背負う可能性もあり、現状の借金残高であれば、金の価格はいつ高騰してもおかしくない状態にあると考えられます。
今はアメリカは中間選挙や予備選挙を控え、景気拡大に余念がありません。
しかし、今後もこの状態が続く可能性の材料を探すと、新規に買う材料が出てきていない状態です。
オバマ前大統領の就任第一期目の最初の中間選挙前も、前期比のGDP4.9%増という驚異的な数字を叩き出しています。
この数字を維持できれば、アメリカは好調だったのですが、維持ができなかったから後のチャイナショックなどを引き起こしたのです。
こうやって考えていくと、個人的には金は買いだと思いますが、売り買い両面を備えた売買を考えていくことが妥当でしょう。
コメントを残す